母に運転させない練習
母がスーパーの駐車場で車のトラブルを起こした。
母は車を運転して、ひとりで来店していた。
買い物を終えて、買い物カートから車に荷物を移し替えたあと、ちょっと気を抜いた隙に、空っぽになったカートがスルスルと勝手に動き出してしまったらしい。
その駐車場は緩やかに傾斜している。
足が痛くて早く歩けない母は、動いていくカートを追いかけることができない。
「誰か、止めて!」と大声で叫んでも、まわりに誰もいなかった。
数台先の、ちょうど動き出したばかりの車にそれが衝突して、お相手の車を傷つけてしまったらしい。
その後、警察や保険会社の方を呼び、結局、母は修理代を支払うことになった。
そもそも、80歳の母がひとりで運転して買い物に行くことが危なっかしい。
その後、母はしばらくは落ち込んでいたが、数日もしないうちに、また車であちこちへ出かけるようになっている。
そろそろ車を手放したらどうか、と本人に何度も話してきたが、これまでの母は大丈夫だと言って全く聞く耳を持たなかった。
昨年父が亡くなり、母はひとりで暮らしている。
田舎なので実家のまわりに店もなく、公共交通機関も、歩いて乗り場へ行くには遠すぎるので利用が難しい。
私たち子どもも多忙で、いつでも車で母を買い物へ連れて行けるわけでもない。
だから、どうしても車は手放せないのだろう。
しかし事故後、
「来年の9月に車検だから、あと一年だけ車に乗ったら免許を返納するわ。」
と、母がようやく決心してくれた。
だが私は、これからの一年間も心配でならない。
母は昔から買い物が大好きな人だ。
多少遠くにある店でも、自分が欲しいと思う食材を、ほぼ毎日買い求める習慣がどうしてもやめられない。
「近くの店でまとめ買いをしたら?宅配も使えるように私が教えるよ。」
と言っても、そうねぇ、と気のない返事だ。
自分の目で見ないと買い物をしたくないし、年齢的に新しい何かを始めることにも抵抗があるようなので宅配を嫌がる。
頑なな母の意識を何とか変えられないものか、私が今できることは何か、考えを巡らせた。
来年からと言わず今から、週に1回でも母を買い物へ連れて行き、母にまとめ買いを試してもらうことを思いついた。
そして、宅配サービスも使えるようになってもらおう。
母にとっても、私にとっても、これは来年からの暮らしの練習になると思う。
こんな小さな準備や心がけが、悲しい事故を防ぐための大事なブレーキになると信じたい。