娘たちの女子会
長女からLINEが来た。
「いとこたちで飲み会するから、うちを使っていい?」
姪からもLINEが来る。
「女子会するから、おうちを貸してもらっていい?」
私の妹家族は、同じ町内に住んでいる。
妹には娘が2人いて、姉の萌(仮名)はわが家の二女と同級生。妹の咲(仮名)はその2歳下だ。
私の子どもたち3人と、妹の娘2人は、5人きょうだいのように仲良く育った。
お互いの家に行き合ってご飯を食べたり、週末になると一緒にお出かけしたり。お互いのピンチのときは、助け合って子育てをしてきた。
私の長女と姪たち2人は、1番年下の咲が成人するとすぐに、3人で女子会をするようになった。
年頃の女の子、恋バナに花を咲かせているのだろう。
私や妹が一緒に行きたがると「お母さんたちは無理」と、あっさりと断られる。当たり前、親に恋バナなんか、聞かせたくもないはず。
そんな仲の良い娘たちの関係を、私はとても微笑ましく思っている。
ところがコロナ禍で、彼女たちもお店で女子会をすることができなくなった。
コロナの波のおさまったタイミングを見計らって女子会を計画しても、仕事の都合もあって3人で会うことがなかなか難しい。最近ではグループLINEのやりとりだけになっていたようだった。
今年の正月は、私と妹、それぞれの家族が時間差で実家へ行くようにした。でも、入れ替わりの少しの間だけ、いとこ同士が顔を合わせられた。
そこで彼女たちは「今度、女子3人で家飲みをしよう」という約束をしたのだ。
ならば、長女の暮らすアパートで集まれそうなもの。
妹の家もあることだし。
でも彼女たちは、わが家を選んだ。
「ゆうも女子会に参加できるかなって思って!」
人工呼吸器を付けているので、外出することが困難になっている二女のゆうを思って、わが家を選んだ娘たち。そんな彼女たちの気持ちに胸があったかくなった。
女子会に縁の無かったゆうには、初めての経験。呼ばれてもいない私の方がわくわくした。
約束の土曜日の夜、わが家のキッチンは飲み屋さんになった。
買い込んだピザやサラダ、おつまみを囲み、酎ハイ片手に、娘たちの女子会が始まった。
私たち部外者は、すぐ隣のリビングに引っ込む。ちょいちょい顔を出そうとする夫には、クッションと毛布を与えて寝かせる。よし!秒で睡魔に負けて夫は撃沈。
さらに、わざとテレビのボリュームも上げて、ちょっと気遣いもしてみる。
娘たちの笑い声が時々漏れてきて、私まで楽しくなる。
1時間ほど経ったころ、頬を少し赤く染めた長女が、キッチンとリビングの間のドアを開けて、こちらに向かって声を掛ける。
「ゆうも、おいでよ!」
リビングに置いているベッドで横になっていたゆうは、ちょうど夜ご飯の栄養剤を入れ終わったところだ。大きなベッドではキッチンに入れないので、簡易の移動ベッドにゆうを移して、キッチン飲み会に乱入させた。
「おお、ゆう!おいでおいで!」
と、ゆうは熱い歓迎を受ける。が、「はい、おばちゃんは出て行ってね!」と、私はあっさり、そう言われた。
それはそうだな。ちゃんとわかっているからご安心を。
萌は看護師だ。
「おばちゃん、痰の吸引なら任せて!」
なんと心強いこと。
少しの間、ゆうも恋バナに参加する。
24歳、恋バナが大好きな年頃だ。
親に秘密があってもいい。
母親が知らない世界を体験させてやれることが何よりも嬉しかった。
「なんなら、ゆうにも、胃婁から酎ハイを少しいれてみようかな?」と思うほど、私もテンションがあがる。
しばらくしてから、ゆうを迎えに行くと、ゆうは嬉し過ぎて、顔が笑顔で固まっていた。
硬い簡易ベッドの上では体が痛いので、あまり長い時間は寝かせられない。後ろ髪を引かれる思いで、ゆうを退席させた。
少しでも女子会に参加できたことで、ゆうはすっかり満足したようだった。
やれやれ、笑顔が顔に張り付いていて、思い出し笑いが止まらない24歳。何を想像しているのやら。
やっぱり我慢できず、おつまみを追加するついでとばかりに、私も女子会に顔を出す。
今までゆうがそこにいた余韻で、自然と、「ゆうの影響力はすごいな」という話題になっていった。
我が家の長女も、長女の彼も、医療従事者。
萌は看護師。
夫の方の姪や甥も、医療従事者だ。
つまり、ゆうのいとこたちは医療従事者ばかりで、まさに、チーム「ゆう」状態だねという話題になった。
それが、ゆうの力なのか、たまたまそうなったのかは、わからない。
けれど、ゆうが彼らの人生になにかしらの影響を与えていたのなら、ありがたいことだと素直に思った。
話を聞いていた咲が、ちょっと不機嫌になる。
彼女は工業高校を出て、建築関係の仕事をしている。
全国各地の現場で、おっちゃんたちに混じって、現場監督として元気に働いている。
負けず嫌いの頑張り屋さんだ。
その咲が、きっぱりと言い切った。
「わたしだって.....、わたしだって.....、毎日毎日、バリアフリーのことを考えながら仕事してるんだからねっ!」
可愛すぎる。優しすぎる。笑いながら目が潤んできた。
また、おばちゃんは泣いてしまうやん。
そう、咲、あなたもチーム「ゆう」だよね。
みんな、チーム「ゆう」でいてくれて、ありがとうね。
飲んでもない私が、誰より一番真っ赤になった、すてきなすてきな女子会でした。
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