カーナビがうまく使えない
ちょっとぶらっとお買い物しに、隣の街の大きな商業施設へひとりで出かけた。
何度も行っている場所だけど、そこへ行く道順はひと通りだけしか知らない。
少しぼんやりしながら運転していると、右折する交差点を通り越して、まっすぐに進んでしまった。
Uターンしなくては!と思い、そのチャンスを探したが、そんな場所が全く見つからない。
やや左方向に曲がっている道をズンズンとしばらく走った。
どんどん目的地から離れていくような感じがして、いったん右折してみようと、適当に右に曲がってみる。
すると、道幅が思ったよりも狭くて、けっこう渋滞していた。
どの方角に向かっているのか、さっぱりわからない。
そうだ!カーナビを使おう、と名案が浮かんだ。
信号で止まったら商業施設をナビに入力してみるつもりだったが、なかなか信号に引っかからず、スイスイと青信号ばっかり。
普段なら青信号が続くとラッキー!って思うけど、この時は「赤になれ!」って思った。
目的地から離れて行く感覚が凄まじく、なんとなくまた右方向に曲がればいいような気持ちがして、次の信号を右折した。
ありがたいことに、たまたま赤信号に引っかかり、ナビを触ってみたら案外操作が難しくて手間取った。しかも老眼鏡を忘れて画面もぼんやり。
めちゃくちゃ焦る。
カーナビは、これまでほとんど使ったことがない。普段から、知っている道しか走らないからだ。
入力途中で信号が青になり、あきらめて走り出した。
もうちょっと長い赤ならいいのに。
コンビニは反対車線側にしかないし、路駐するスペースもないような中途半端にスピーディーで賑やかな道だし。
ようやく待ちに待った赤信号で、なんとかナビを設定して音声案内を開始した。
青信号に変わって走り出した途端、ナビの女性が言った。
「目的地周辺です。音声案内を終わります。」
え?
マジか?
左前方に、商業施設が見えてきた。
これまでに見たこともない角度から商業施設を見上げると、知らないところに来たような感覚でソワソワした。
私はいったい、どこから登場したんだろう。
どっちの方角を向いているのか、まださっぱりわからない。
でも私って、方向感覚がなかなかすごいな、と思った。
ナビが無くても楽勝だ。
無事に到着してホッとし、夫にLINE。
『道を間違えて迷子になったけど、偶然着いた。』と。
『迷うところがない』という返信は、とりあえずスルーした。
お尻がサイズアップした二女にピッタリのズボンを見つけて、色違いを2本購入。
たくさんの人手で賑わう施設のざわざわに、軽くめまいがする。
少しだけ見たい店に寄った後、無印良品でお気に入りのぶどうゼリーっぽいつぶつぶドリンクを、帰り道の車で飲むために買った。
さぁ、帰ろ。
ひと口だけジュースを飲み、家に帰ろうとご機嫌で車を走らせたら、いきなりナビがおしゃべりを始めた。
「300メートル先を左方向です。」
いや、帰るなら右でしょ。
この子、私をまた商業施設へ行かせようとしている。
音声案内を終わらせていなかったみたいで、頼んでないのに案内しちゃってる。
今度は、音声案内の終わらせ方がわからない。
だいたい、ナビの説明の仕方も私は苦手だ。
「300メートル先」っていう説明に迷う。結局は判断が鈍り、これまで数回、うまく曲がれずにまっすぐ行ってしまってカーナビを混乱させたことがある。
「コンビニがある交差点を右に曲がってください」みたいに言ってくれたら安心なのに。
こんな田舎の道でさえ、私はナビにビビる。だから初めての道を走る時でも、カーナビは、これまでほとんど使わなかった。
都会の複雑な道や、高速道路のジャンクションなど、カーナビの説明で上手く走れる人々を、私は心から尊敬する。
では、私の車に、わざわざなんのためにカーナビをつけたのか、それはバックモニターが欲しかったから。
私的には、カーナビをつける目的はそれだけだ。
自宅への帰り道、ずっと私をなんとかして商業施設へ戻そうと、まじめなカーナビが訴えてきた。
今度は、音声案内を切るために赤信号を願った。
もはや、ぶどうジュースどころじゃない。
途中まであきらめずに私を誘導してくれたカーナビだったが、偶然見つけた『自宅に戻る』という表示を押して音声案内を切り替えると、次は知っている道をいちいち案内してきた。
もう、カーナビさんもいい加減、察してほしい。
私、自宅に帰る道は知ってるんだから。
放置していた蒟蒻ドリンク、すっかりつぶつぶ感が微妙になってるし、ぬるいし。
淡々とした彼女のおしゃべりに
「はいはい、知ってるから。」
「もう、言わなくてもわかってるから。」
と言いながら、結局、自宅までナビ子にお供をしてもらった。
カーナビはやっぱり苦手だ。
多分もう、ひとりでカーナビは使わない。