「大丈夫だからね」と言えなかったわたしが、息子から気づかされたこと。
我が家にもとうとう、「流行病」が侵入してきました。
先々週の週末、学校行事だった関東方面への研修旅行から帰った息子が発熱。
感染していることが判明。
先週はずっと、気を遣いながら隔離生活を過ごしていました。
すぐ近くに迫る危険を感じながら、難病の二女にうつさないように神経をつかう日々。
同居家族は濃厚接触者。
自分がもし感染してしまったら、我が家はいったいどうなってしまうのか。
二女が感染したら、命にも危険が及びます。過去2回、インフルエンザに罹患した二女は重症の肺炎になり、長い入院生活を送ることになりました。
どうしても、二女にうつしてはいけない。
二重にマスクをして、がっつり換気をして、まめに消毒をしながら、とにかく自分の免疫力を高めるために昼寝しました(笑)。
以前にも同じように、家族がインフルエンザに罹患した時には、隔離生活を何度も経験してきました。
なかでも私にとって、最も苦くて心に残っているエピソードを書いてみようと思います。
*****
長女が中学3年生のとき、「新型インフルエンザ」が大流行した。コロナほどではないが、当時はその流行病をみんなが恐れていた。
受験生だったということもあり、特に長女はキリキリしている様子だった。
二女のゆうが特別支援学校の小学6年生だったので、10月に入ると修学旅行に向けて、私は二女の体調管理に必死になっていた。
二女の修学旅行を翌日に迎えた日の午後、テスト期間中で勉強をしていた長女が二階から泣きながら降りて来た。
「お母さん、どうしよう、熱が出てきてしまった。39度もあるんやけど。」
私は長女を心配するよりも、むしろ彼女に腹が立ってしまった。
「なんで今なの?」と。
こんなとき、我が家には二女がいるので、私が一緒に長女の病院には付き添ってあげられない。
近所の病院へひとりで急いで行くよう、私は熱のある長女にキツく言い放ち、大きなため息をついてしまった。
しばらくして帰ってきた長女は、まだ泣いていた。
「ごめんなさい。インフルエンザだった。私のせいで、ゆう、修学旅行に行けやんよね。」
私は何にも彼女に優しいことが言えなかった。長女の顔も見ないで、二階にずっといるように、と言っただけ。
今思えば、ひどい親だ。
楽しみにしていた二女の修学旅行は、あっけなく無しになった。
肢体不自由児の通う特別支援学校の修学旅行は、家族にインフルエンザの罹患者がいれば、本人が元気でも当然参加することはできない。
この日まで、神経をすり減らすようにして二女の「元気」を守ってきた。
主治医や学校の担任との打ち合わせにも膨大な時間を費やした。
可愛い洋服を新調して、あらゆることを想定して医療的なものも含めて大量の荷物を準備した。
二日前から学校も休ませて、二女の体力温存のために大事をとってきた。
それらすべてが無駄になってしまった。自分をコントロールできないくらいに、そのショックが大きすぎた。
私は長女に対して「大丈夫だよ、気にしなくていいから、自分の身体を治すことを大事にしようね。」という言葉をちゃんと頭の中には持っていた。
でもその言葉が出てこない。
大きなため息を何度もついて、完璧にできあがった旅行かばんを睨みつけていた。
旅行のことよりも、新型インフルエンザという恐怖も私の気持ちを真っ暗にした。
もしもインフルエンザが二女にうつれば、命に関わることになる可能性もある。
これからの隔離生活への不安がぐんとのしかかり、前向きな気持ちに切り替えることがなかなかできない。
「よっしゃ、もう、いい!もう、旅行のことは忘れよう」と、かばんの中の物を全部放り出した。
散らかった荷物の中に座り込んで、しばらくまた、途方に暮れる。
この修学旅行は、医療的ケアが必要になってきていた二女が親と離れて宿泊する、最初で最後の旅行のはずだったのだ。
やっと少し気持ちが落ち着いたので、長女にアイスノンやポカリを持って行き、テストは気にしないで、ゆっくり眠るように話した。
私がしっかりして、子どもたちを守るしかない。
ふと気がつくと、保育園の年長児だった息子が家にいない。家中を探しても、庭にも二階にもいない。
慌てた。
いったいどこへ行ってしまったんだろう。こんな時に、黙って遊びに行ってしまったのだろうか?
彼は必ず、遊びに行くときは、私にひとこと言って行くんだけど。
一時間ほど経ち、外が薄暗くなってから、やっと息子が「ただいまー。」と言いながら帰ってきた。
玄関に行くと、彼は真っ赤な顔で立っていた。
「黙ってどこに行ってたん?お姉ちゃんが病気になってしまったんやから、おうちにいなきゃダメやん。」
頭ごなしに叱る私に、彼はボソリと言った。
「神社に行っとった。」と。
「お姉ちゃんの病気が早く治りますように」と、「ゆうに病気がうつりませんように」ってお願いしに行ってきたらしい。
お正月、親戚のみんなで一緒にお参りする地域の神社へ、彼はひとりで歩いて行っていたのだった。
怒ったことを息子に謝った。
そして、自分の大人げない態度を猛反省した。
自分のせいで妹の修学旅行がなくなったことで苦しんでる長女の気持ちを、まずは支えてあげるべきだった。
一番悲しいのは長女だろう。
自分のテストより、二女の修学旅行を心配している長女に、ちゃんと優しくしてあげれば良かった。
優しくできなかったことを、長女にも謝った。
旅行の荷物をきれいに片付けた。
もう、いつまでもくよくよしない。
息子に教わった気がした。
長女のインフルエンザは家族にうつることなく治った。
彼女がすっかり元気になってからすぐ、日帰りで家族旅行をした。
目的地は、二女が修学旅行で行く予定だったテーマパークだ。
*****
息子も無事に隔離期間が終わって、すっかり元気になりました。
なんとか家族にうつることもなく、コロナは我が家から去りました。
もちろん、今回は私が神社へお参りし、お願いしてきました。
「息子が元気になりますように。ゆうにうつりませんように」と。
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