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息子が帰ってきた日には
春からのひとり暮らしで、息子は4キロ痩せた。
先日、我が家に帰ってきた息子を見て、細い体が一段と細くなっていて、心配になった。
「ちゃんと食べてるの?」
「あぁ。」
「でも、あんた、痩せてるやん。」
そう言うと、食べても食べても痩せていく、と彼がぷよぷよ肉の全くないお腹を見せながら困った顔をした。
自炊をして、たくさん作ってモリモリ食べているのに、と息子本人は言っている。
なんならスナック菓子も食べてるわ、と威張ってくる。
「朝ごはんは?」と聞くと、
食パンを焼かずに2枚食べることが多いようだが、ピーナツバターも塗ってるし、牛乳も飲んでいる、と威張ってくる。
「昼ごはんは?」と聞くと、
ちゃんと毎日弁当を作って持って行くけど、「少なくて足りやん。」と威張ってきた。
意味がわからない。
どういうこと?
よくよく聞いたら、弁当箱が小さいのだそうだ。
意味がわからない。
彼は就職してから、自分で弁当箱を買った。洗いやすくて保温ができる、そんな気に入ったものを買って使っている、と言っていた。
それが小さいとは、どういうこと?
「ポチるときに、いつの間にか画面が変わったみたいでさ、なんかわからんけど、OLさんサイズの小さな弁当箱が届いた。意味わからん。」
と言う。
こっちが意味わからん。
「夕方になると腹が減って腹が減って、やばいわ〜。」
と笑ってるので、それはあかんわ、と思った。
おにぎりを余分に持っていく知恵は回らず、というよりめんどくさくて、そのままOLさん風のちっちゃい弁当箱にスカスカなおかずを入れているそうだ。
「今からイオンに行くよ。」
午後から、私は息子を連れ出して、イオンへ向かった。
もちろん、お目当ては弁当箱だ。
彼が買う予定だったサイズの弁当箱を見つけて、「私が買うわ!」と、サクサクとレジに向かった。
このサイズなら、お腹もちゃんと満たされるだろう。
ただ息子は、渋った顔で
「おかずがさらにスッカスカやな。何を入れよう。」
と言っているので、ミニトマトやブロッコリーの個数を増やしたらいい、と、私はさらに痩せそうなアドバイスをした。
「それにさぁ、今使ってる弁当箱がもったいないやん。どうするん?あれ。」
と言うので、私が使うからちょうだい、と、絶対に使うアテもないのに言ってみた。
「いいのいいの、たまには弁当箱に昼ごはんを入れて、OL気分を味わってみるから。」
そう言う私を、完全に使わないやろ、みたいな顔をしながらチラ見して、息子が半笑いした。
イオンからの帰り際に息子が、
「あ、米もないわぁ。買わなきゃなぁ。いつもめちゃくちゃやっすいブレンド米を買ってるんやけど、最近スーパーに米がないよなぁ。」
とか言うので、お米コーナーへ立ち寄ってみると、予想通り、長い棚の上には商品がほとんどなかった。
おそらく一番お値段が高いせいで棚にまだいるのであろう「あきたこまち」の新米5キロ入りが、ちょこりんと3袋だけ残っていた。
『おひとりさま、一袋まで』
高いな、一袋までか、そうだよな、とかいろいろ思いつつ、私は一袋を息子用に買うことにした。
親って、こんなもんだな、と思う。
子どもに何かやってあげられることが、何より嬉しい生き物だ。
おそらく彼が痩せたのは、お弁当箱のせいではなくて、新しい環境で、新しいことが始まり、小さなストレスや緊張や多忙で痩せたんだろうな、と思う。
新しい弁当箱にご飯をいっぱい詰めて、わんぱくに食べて今を乗り切ってほしい。大丈夫、慣れてきたらそのうち、「やばい、オレ腹が出てきたわー。」って言うようになるから。
夕方、息子がアパートへ帰っていくまでに、急いでおかずを作り、うちにある食材やパンやお菓子や、あれもこれもを彼に持たせた。
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野菜ジュースは朝食のおかずとして。
たくさん食べて、とにかく元気でいてほしい。
息子を見送ろうと思い、自宅の横に停めてあった彼の車のところまで一緒に行った。
小さな頃みたいに「車に気をつけてね。」を何度も言いながら。
自転車に乗る少年じゃないんだし、「車に」ではなく、「車の運転を」かな、とか思いながら、まぁいいか、と思った。
「じゃあな。」って運転席の窓から息子が手を振って、あっという間に車がうちの前の坂道を上っていった。
私は彼の車が見えなくなっても、しばらく彼を見送っていた。
もう新米の季節だな。
そろそろ、うち用の米も買わなきゃなぁ。