秋の空時計 #毎週ショートショートnote
夜空に浮かぶ月。
「はぁ……酒が旨い」
田舎暮らしは不満ばかりだ。でも、窓から見るこの夜空には価値がある。
「お姉さん、今日もやってるね」
帰宅した夫が、私の隣に腰を下ろす。
「おかえり。ねぇ、今日は月が半分だよ」
「これは下限の月っていうんだ」
「へぇ。月にも名前があるの?」
夫は答えず、私に酒を催促する。
たぶん、どこかで聞いた話なのだろう。
夫の持つお猪口へ酒を注ぐ。
「ん。他には何て名前があるの?」
「さぁ? 駅で高校生が喋ってた」
やっぱり。そういうことに興味のない人なのだ。
「私は満月が見たいなぁ」
「二十九日に見れます」
「それも高校生?」
「当たり。ま、今日はこっちの満月で我慢して」
私の目の前に、真ん丸の影が現れる。
「もしかして……栗どら焼き!?」
「当たり~」
「もうそんな季節かぁ」
「秋を感じるよね」
「感じるねぇ」
夏より、少し輝きの減った秋の夜空。
時計を見るのも忘れ、二人で語らうのが日課。
私にとって、どんなことよりも価値がある。
(410字)
たらはかにさんの企画の参加致しました。
お題「秋の空時計」
栗どら焼きが食べたすぎて無理やり登場しました。
今度岐阜へ行くので買ってきます。はやる気持ちが抑えられない。(通販はしない)
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