見出し画像

メガネ朝帰り #毎週ショートショートnote

 職場に到着すると、「田中さぁん」と甲高い声で声をかけられた。
 やや離れている声の主は、ぼやけており表情がわからない。私は目を細め焦点を合わせる。

「斎藤さん?」
「ヒッ」

 なんでもないわ! と彼女は去って行った。いつも仕事を押し付けてくる斎藤さん。何も頼んでこないなんて、明日は雪でも降るのでは。

「田中さん、これのコピーをお願い」

 主任? 私、忙しいのですが。

「どの資料ですか?」
「え! えっと、やっぱりいいや!」

 絶対に雑用はしない主任。今日はどうしたのだろう。

「先輩、どうしたんですか? みんなに睨み散らかして」

 隣の後輩が、恐る恐る話しかけてきた。

 あ、もしかしてメガネ?

 今朝は部屋にあるはずのメガネがなく、仕方なくそのまま家を出た。
 私は目つきが悪いようで、いつも周りから恐れられていた。それが心底苦痛だったが、メガネをかけたら他人の態度は180度変わった。

 元々大人しい性格。頼まれるとノーとは言えず、いいように使われてしまう。そんな自分を変えたい、ずっと望んでいたことだ。

 翌朝、メガネは帰っていた。いつものようにメガネをかけ、身支度を整え会社へ向かう。
 数メートル歩いたところで、私は立ち止まり引き返した。

 部屋に戻り、メガネを置いてまたすぐ家を出た。

(517字)


メガネがないと仕事は無理じゃない?と思いますが、そこはファンタジーで…(ごにょごにょ)

たらはかにさんの企画に参加いたしました。
お題は「メガネ朝帰り」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?