だんだん高くなるドライブ#毎週ショートショートnote

気づけば、外の景色は山道に変わっていた。

「お客さん、ぐっすり眠っていましたね」

反射的に前を向くと、バックミラーに映る運転手と目が合った。
どうやら私は、いつの間にか眠っていたらしい。

今日は、久しぶりに帰省するはずだった。
三十代も後半になり、私の足はすっかり両親から遠のいていた。
帰る度、「結婚は?孫は?」の問い。二人の切実な願いが、鉛となって私の体を押し潰す。
お互いの年齢が高くなると、自然と距離は離れていった。

「少し揺れます」
運転手の声にハッとする。
タクシーは山道を抜け、勢いよく空へと飛び出した。

しかし、こんなことなら、もっと二人に顔を見せておくべきだっただろうか。

もう一度外の景色を見る。
遠くに飛行機が見えた。随分と高い所まで登って来たようだ。

「上まで行くと、どうなるんですか?」
「すみません、私はお客さんを運ぶだけで。あの世がどんなものなのか、全く知らないんですよ」

また外を覗いたが、もう地上は見えなくなっていた。

(410字)


たらはかにさんの企画に参加しております。
今週のお題「だんだん高くなるドライブ」。
花粉症で車内も辛いです。ドライブはしばらく我慢…。


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