身長か?筋肉か? ~男性のモテに重要な体型とは~
1. はじめに
最近のnoteでは筋肉や身長の話が続いていて大変申し訳ないとは思っているが、身長も筋肉も、どちらも男性の身体的魅力を考える上では重要な要素であるとされている。しかしながらX男女論界隈やその他モテ論においては、「結局身長が全て」「身長が低いとモテない」という言説がもてはやされる一方、筋肉については一部の筋トレマニアしか語っておらず、男性のモテにおける筋肉の効果も十分に語られていないように個人的には思えるのだ。結局、男性のモテにおいて、より重要なのは身長なのか筋肉なのか??
2. 男性の身長と魅力
2.1. 男性の身長と性行動
人々の実際の性行動に関するデータを見ることは、モテに関わる特徴について検討する上で有効であると考えられる。男性は可能であれば多くの性的パートナーと関係を持つことを望む傾向にあることが過去の研究で分かっていることを踏まえると、多くの女性を性的に惹きつける特徴を有する男性は性的パートナーも多くなると考えられる。身長が性的魅力と強く関係しているのであれば、身長の高い男性は多くの性的パートナーがいるだろう。
では、実際のところ、身長の高い男性は性的パートナーが多い傾向にあるのだろうか?研究によれば、確かに身長が高い男性ほど性的パートナーを得やすいという相関関係があるものの、その関係の大きさは「極めて小さい」ことが分かっている。Lidborgらのメタ分析によれば、男性の身長と交配行動(例:過去の性的パートナーの数)との相関関係は有意ではあるものの、関係の大きさを示す効果量は非常に小さいものであった(r=0.05程度)。最近の研究にはr=0.1以下の効果量は実用的な意味を持たないと見なすものもある(例えばFergusonのポルノに関するメタ分析)ことを踏まえれば、この関係については慎重に解釈すべきだろう。身長だけに。
さらに、Frederickらが大規模サンプルを対象に行った研究においても、男性の身長と性的パートナーの数との関係が限定的なものであることが示唆されている。Frederickらによると、参加者の中で最も身長が低いレベルに位置する男性は、平均身長もしくは高身長の男性と比べて過去の性的パートナーの数が低い傾向にあることが分かった一方、ほとんどの身長カテゴリーにおいて、過去の性的パートナー数の平均値や中央値にほとんどばらつきがないことが確認された。このことは、過去の性的パートナーの数という点に関して言えば、身長が異なる男性の間で(特に身長が低い男性を除いて)大きな違いはないことを意味している。
これらのことを踏まえると、男性の身長はモテにおいて強い優位性を持っているわけではないことが見て取れる。しかし、男性の身長は男性のモテにおいて重要であるという言説は長い間支持されているため、この結果は不可解だろう。
なぜ男性の身長と性的パートナーの数などの性行動との関係は限定的なのか?Frederickらは上記の研究において、身長と性的パートナーの数との間の関係が限定的であることの説明は難しいとしつつも、「ほとんどの女性の中に許容できる男性の最低身長があり、それを超えた男性は性的パートナー候補に入るので、異なる身長の男性の間で性的パートナー数が似通ってくるのではないか」と考察している。
この説がどこまで妥当なのかということについて検証するためには、実際に女性がどの程度の身長の男性を好み、許容できるのかというデータを見る必要があるだろう。ということで、次は女性が男性パートナーに望む身長や許容できる男性パートナーの身長について考えていこう。
2.2. 確かに高身長男性は魅力的だが・・・
身長と性的パートナーの数との関係は極めて小さいものであったが、しかし高身長な男性が魅力的でないかというとそういうわけではない。実際、Stulpらが行った調査によれば、女性は高身長の男性を好み、パートナー(男性)が自身よりも低いことを受け入れられない傾向にあることが示唆されている。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886913000020
一方、女性が好む男性の身長、及び許容できる身長を見ると事情が変わってくる。下記は、Stulpらの研究において、参加者の身長と、参加者がパートナーとして好ましいと考える身長(真ん中の線)、許容できる最高身長(上の線)、許容できる最低身長(下の線)を表したグラフである。
※この研究の参加者の平均身長は、男性で184.60cmで女性で170.94cmである。参加者の多くはオランダ人やドイツ人であるが、この数値はオランダ人の平均身長と類似している。
グラフを見ると、高身長の男性が女性にとって魅力的なのは事実だが、平均身長(170cm程度)の女性は大体平均程度(180cm前半程度)の男性を好んでおり、男性の平均より低いが自分より少し身長が高い程度の男性(170cm前半程度)も最低ラインではあるものの許容していることが分かる。また、身長が低い女性(160cm程度)はより身長差のある男性を好んでいるが、最低ライン~好みの身長は170cm弱~170cm後半程度であり、比較的身長が低い男性でも許容されている。
つまり、確かに身長が高い男性は魅力的ではあるものの、平均身長程度の男性やそれより低身長な男性であっても、女性にとってパートナーの候補になり得るということである。このことは、先ほど紹介したFrederickらの考察とも整合的だ。平均的な身長の女性であれば、男性の平均身長程度かそれより身長が低い男性でもパートナーの候補として考えるので、結果として男性間で身長が異なっていたとしても性的パートナーの数は似通ってくる。
ここまで、男性の身長とモテについて検討してきた。男性の身長は、X男女論界隈で考えられているほどモテにおいて重要というわけではなさそうだ。では、筋肉についてはどうだろうか?
3. 男性の筋肉と魅力
前章では、男性の身長とモテとの関係について検討してきた。研究を踏まえると、高身長の男性は確かに魅力的ではあるが、低身長の男性が大きなマイナスを被っているかというとそういうわけでもないことが示唆された。
この章では、男性の筋肉とモテとの関係について検討していこう。ただ、男性の筋肉とモテについては過去のnoteで検討しているので、そちらも参考にしてほしい。
3.1 男性の筋肉と性行動
前章では男性の身長と性行動との関係性について検討したが、筋肉についてはどうだろうか。
先ほど紹介したLidborgらのメタ分析では、男性の身体の男らしさに関する分析も行われている。なおこの研究における「身体の男らしさ」は「筋力、体型、または筋肉量/除脂肪量」と定義されており、実質的には筋肉質レベルと考えてよいだろう。
分析の結果、男性の身体の男らしさと性行動(例:性的パートナーの数)との間には有意な相関が見られることが分かった。関係の強さを示す効果量はr=0.14程度であり、強い関係ではないが身長と性行動との関係における効果量(r = 0.05程度)と比べると大きい。なお、FunderとOzerはr = 0.1の効果量を「小さいが長期にわたって影響力を持つ可能性がある」としており、これを踏まえると男性の身体の男らしさ(≒筋肉)と性行動との関係は(身長と比べれば)検討に値するレベルではあるだろう。
また、他の研究においても、筋肉量が多い男性は性的パートナーも多い傾向にあることが示唆されている。LassekとGaulinがアメリカの全国健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)のデータを分析した研究では、男性の四肢筋量(上腕部と大腿部の筋肉量の平均)は過去1年間の性的パートナー数を有意かつ正に予測し、男性の除脂肪量(体重から脂肪量を引いた値)は過去の性的パートナー数を有意かつ正に予測することが分かった。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090513809000397
これらのことから、より筋肉質な男性は性的関係を得やすいことが示唆される。また、男性の筋肉と性行動との関係はもの凄く強いわけではないが、身長と比べると強いと言えるだろう。
では、筋肉質な男性は女性にとって魅力的なのだろうか?
3.2. 筋肉質な男性は魅力的である。
男性の筋肉は身体的魅力を考える上で重要な予測因子であることが示唆されている。Sellらの研究では、身長は男性の上半身の筋力とは無関係に男性の身体的魅力を予測することが分かっているが、一方で男性の上半身の筋力は身長や体重と比べはるかに大きく頑健な身体的魅力の予測因子であることが分かった。
下記のグラフは、男性の上半身の筋力の推定値(横軸)と、男性の身体的魅力(縦軸)との関係を示したグラフである。
とは言え、女性の中には弱そうに見える男性を好む女性もいるのではないかと考える人もいるだろう。Sellらはこうした点を検証するために、個々の女性評価者のデータを調べ、身体的に弱い男性を好む女性が存在するか調査した。その結果、興味深いことに、上半身の筋力が弱い男性を有意に好む女性は存在しないことが分かったのだ。あくまでこの研究のサンプルにおいてという点には注意が必要であるものの、弱そうに見える男性を好む女性が実際には極めて少ないということは言えるだろう。
3.3. 筋肉と脂肪
男性の筋肉がモテにおいて重要であることは分かったが、しかしなお違和感を持つ人はいるだろう。筋肉量が多かったり強そうに見えるからと言って、必ずしも魅力的であるとは限らないのでは・・・と。
これについてはその通りであり、男性の筋肉は男性の魅力を強く予測するものの、一方で筋力や筋量だけでなく脂肪量なども含めた体格も男性の魅力を考える上で重要であることが示唆されている。
まず、女性は筋肉質な男性を好むが、脂肪が多い男性は好まない。Sellらによると、男性の上半身の強さの推定値をコントロールすると、男性の体重やBMIは男性の魅力を負に予測することが分かったという。
女性は筋肉質な男性を好むが脂肪の多い男性はあまり好まない、というのは実際の行動データにも表れている。先ほど紹介したFrederickらの研究によれば、標準体重(BMI:18.5-24.99)および過体重(BMI:25-29.99)の男性は、低体重(BMI:~18.5)および肥満体型(BMI:30~)の男性と比べ過去の性的パートナーの数が多く、パートナー以外の女性と関係を持つ頻度が多いことが分かった。BMIは必ずしも筋肉質か脂肪過多なのかを区別できる指標ではないものの、筋肉が発達した人は往々にして標準~過体重のカテゴリーに含まれることを踏まえると、標準~過体重の男性が性的パートナーが多いことは筋肉質な男性が魅力的であることと整合的とも言えるだろう。一方、低体重の男性は筋肉が少ない可能性が高く、また過体重を超える男性は脂肪が多い可能性が高いため、筋肉質な男性よりも性的関係においては苦労すると考えられる。
3.4. 逆三角形体型
筋肉質な男性が好まれる一方で脂肪が多い男性が好まれないということと関連して、女性は男性の「逆三角形体型」に魅力を感じやすいことが示唆されている。逆三角形体型は胸や肩ががっしりしている一方で腹部が引き締まっている体型のことを意味するが、筋肉質かつ体脂肪率が低い男性でなければ逆三角形体型になることは難しい。
逆三角形体型は研究では"WCR(Waist to Chest Ratio)”という指標で表され、「ウエスト周囲径÷胸囲」という式で算出される。つまり、WCRの値が小さい男性ほど、ウエストが細く胸と肩が広い逆三角形体型であることを意味する。
Maiseyらの研究によれば、WCRが低い男性ほど女性から魅力的であると評価されやすいことが分かっている。またWCRは男性の身体的魅力における主要な決定要因であり、魅力の分散の56%がWCRによって説明された。
また、Fanらの研究もこの結果を支持しており、魅力の分散の53.6%がWCRによって説明された。下記グラフはFanらの研究結果である。
※横軸がWCR、縦軸が女性からの魅力評価を表している。(AR = Attractiveness Rating)
そして、逆三角形体型の男性は女性から性的パートナーとして好まれやすい。Priceらの研究によると、男性のWCRは、男性の短期的関係(ワンナイト、浮気など)における魅力および長期的関係(恋愛、結婚など)における魅力を負に予測することが分かった。
これらのことを踏まえると、男性の筋肉と魅力との関係を考える上で、「体格」が重要であることが分かる。筋力のが強い(強そうな)男性は女性にとって魅力的ではあるものの、脂肪の多い男性は魅力的ではない。このことは、逆三角形体型の男性が女性にとって魅力的であるということからも分かる。男性の魅力的な体型として、胸や肩はがっしりしていた方が良いが、腹部は引き締まっていることが望ましいということは言えるだろう。
恐らくではあるが、この点が男性の筋肉と魅力との関係をややこしくしている。筋肉と魅力との関係についての話に対して「細身の男性の方が良い」という意見が寄せられることがあるが、それは「ガリガリの男性が良い」という意味ではなく、「筋肉があってかつ引き締まった男性が良い」という意味である。決して「筋肉は男性の魅力を高めない」という意味ではないことに注意が必要だろう。
終わりに
今回は、男性の魅力を考える上で、身長と筋肉とどちらが重要であるか、ということについて検討してきた。身長に関して言えば、身長が高い男性は確かに魅力的であるが、身長が低い男性が圧倒的不利というわけではないことが示唆された。一方で筋肉は男性の魅力を強く予測し、筋肉質でない弱そうな男性を好む女性は存在しない。さらに体格の重要性(女性は脂肪の多い男性を好まず、逆三角形体型の男性を好むこと)を考慮すると、男性にとって魅力的な体型とはどのようなものか、ということはおのずと見えてくるのではないだろうか。