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ばらの花

くるりさん 『ばらの花』の歌詞をLLMに読み込ませてプロットを書き出して、プロットから書き起こした小説です。

雨が降り出したので君は来ないと思った。
君は何よりも雨が嫌いだった。
時間をもらえたかと思って少しほっとした。
ホッとしたのもつかの間、LINEのメッセージが届く。
「雨が降っているから遅れる」
相変わらず、絵文字も何もない。
「了解」
とだけ返信する。

「まったく、、」
ため息をつく。
こんな日まで雨か。
あなたとの大事な日にはいつも雨が降っていた。
だから雨が嫌いだった。
あなたと一緒に生きていくと決めた日も、そして今日、離れ離れで生きていくと決めた日も。
まとまらない髪にイライラしながら、なんとか外出の準備を整えてあなたにLINEする。
雨の中、一歩を踏み出す。

西荻窪の住宅街にある、ジャズ喫茶「フリーダム」。
あなたはここが好きでよく待ち合わせ場所に指定した。
こんな時代にまるで昭和にタイムスリップしたような店。
雨の日でもそれとわかるほど、美味しそうなコーヒーの匂いが外までもれている。
カラン、と小気味の良い音を立ててドアが開く。

「いらっしゃいませ」
気持ちの良い挨拶をする奥さんと黙ってコーヒーを淹れ続けているご主人。
こんな夫婦になれるんじゃないかと思っていた。
私たちはどこで間違えてしまったんだろう。

あなたは、相変わらずこんなにコーヒーの美味しい店で、ジンジャーエールを頼んでいる。
しかも、いつもほとんど手をつけないから気が抜けて、ただの黄色い液体と化している。
そんなどうでもよいことまでイライラする。

席について、コーヒーを注文する。
あなたは私を一瞥して、また汗をかいたジンジャーエールのコップを見つめる。

「それで?書いてくれた?」
私がわざと素っ気なく聞く。
あなたは、「ああ」とだけ答えて、離婚届の紙を取りだす。

その瞬間、グラリっと世界が揺れる。
自分の体がおかしくなったのかと思ったがそうではなかった。
飾ってあったばらの花の花瓶がスルスルと滑り落ちて床で割れる。
地震だ!そう思った瞬間、私はあなたの手を探していた。あなたは立ち上がって私を抱きかかえた。

一瞬、時間が止まったようだった。
割れたはずのばらの花の花瓶はもとに戻り、店は何事もなかったように平然としている。
私を抱きかかえたあなたと、あなたの手を必死で握っている私だけが、マヌケな夫婦としてそこに立っていた。
私達は呆然として、お互いの顔を見つめ合った。
そして、笑った。
雨はあがったようだった。

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