小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』10/10(木) 【第62話 原因】
翌朝起きると、朝ご飯が出来ていた。
片付けをしながら、父は電話をしている。
電話を切った父が
「おはよう。冷蔵庫にあるもの適当に使った。
それから、学校に連絡しておいたから。
すまないが今日は手続きに必要な証明書を、
役所に取りにいってくれるか?
できる範囲でいいよ。残りは父さんが
山形から帰ってからするから」
父の言葉に頷いた。
昨晩、父から、役所は平日しか行けないから、
一日だけ、学校を休み、証明書の手配を
するよう頼まれていた。
父は、そう言っているものの、
父から頼まれたものは、
私が準備を終わらせるように
しようとは思っていた。
父は食器を洗うと慌ただしく出て行った。
10時の新幹線で山形に向かうからだ。
今日は祖父母の家に行き、今後の事を
話しあうということだ
そして先ほど電話で、山形の医師と
明日の9時に会う約束を取り付けた。
母の診断書は昨日、既にもらっている。
また、今の病院から山形の医師には、
カルテをメールで送ってもらうことに、
なっている。
父は今後の治療方針まで決めてくると言った。
我が父ながら、本当にできる人だと思う。
掃除や洗濯などの家事は、手早く終わらせ、
区役所に向かった。
バスで役所に向かう途中、この2日で抱いた
疑問に思考を巡らせていた。
父と母は、なぜ、離婚したのか?というより、
どうして、2人は一緒になったのか?
のほうが気になった。
久しぶりに父に会い、改めて強く思ったのは、
父は、"生きていく力"が、強い人だと思った。
たぶん、どこに行っても1人で生きていける
タイプの人だ。
一方、母は、誰かにすがっていないと
生きてはいけない人だと思う。
そんな2人が一緒に生活していたとしたら、
価値観のズレから軋轢が生まれてしまう事は
想像に難くない。
言葉は悪いが自分で道を拓ける父にとって、
母が足かせになったのかもしれない。
そう考えると、優しい父だがドライな部分も
あるかもしれないと思った。
そうでなければ、娘を残して、
家を出たりしないだろう。
その答えは皮肉にも、もう一つの
大きな疑問に結びついてしまった。
私も、母と同じ種類の人間だったがゆえ、
父に捨てられた。
そんな同じ種類の人間の未来を案じることで、
母がアルコールに逃げていったのではないか?
母と同じく、誰かにすがらないと生きれない、
私も、父の足かせで、そんな私の事を案じ、
母が現実逃避のためにアルコールに溺れた
生活にはまっていた、、、
結局、私が全部悪いんだ。
思考の沼にはまってたら
「櫻井裕奈さーん、櫻井裕奈さん、
いらっしゃいませんか?」と、
何度もを呼ぶ声で役所に居る事を思い出した。
父が必要な書類や順番までまとめてたので、
1時間少しで、すべての書類が揃った。
私はそのまま、自宅に帰った。
残りの書類を揃えようと動き始めたものの、
母の部屋に入って探すものは後回しにした。
母の部屋に入って面影を感じると思考の沼に、
再びはまると思ったからだ。
しかし、それ以外のものも、
1時間も経たず、揃え終わってしまった。
それでも今は母の部屋に入る気分になれない。
結局、父に捨てられて、母を追いやったのは、
私なんだ、、、さっきから、
そのフレーズが、頭の中で回り続けている。
そんな思考から抜け出したいと思いながら、
あてもなく部屋を見渡していると、
黒いカードが目に入った。
以前、興味本位から行ってみた、
クレストムーンクリニックのカードだ。
表現は正しいとは思わないが、
前回行った時はフワフワした感覚で、
思考が麻痺状態になったのを思い出した。
時計を見ると、まだ13時だ。
効果があるとは思わないが、
気分転換も兼ね、行ってみようと思った。
一応電話をすると、予約は空いていたので、
すぐに家を出て、クリニックに行った。
2回目のほうがかかりやすいのかもしれないが
前回以上に、催眠療法中の記憶がない。
ただ催眠が解ける直前の言葉だけは、
頭に残るのは前と同じだ。
「だから言ったじゃない、
そんなことを続けても意味がない」
前後の脈略がないので、何の事かわからない。
ただ、今、自分の家族にあてはめて考えれば、
母の病気というきっかけで家族は再会したが、
また同じことの繰り返しになる、、
ということのように思えた。
ただ深い考えができないほど、
前回にましてフワフワした感覚が続く。
それを求めていたのだが、予想以上だった。
普段、昼寝はしないほうだが、
帰宅してから、横になりたいと思い、
自分のベッドで横たわった。
(第62話 終わり)
明日以降、暫く投稿がお休みになります。
次回、63話は10/20(日)投稿再開予定です。
★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0
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