読み切り小説「バッティング投手交代」
『バッティング投手交代』
6月の、ある木曜日の放課後、小学校の
グランドで、俺たち野球部が練習をしている。
夏休みの大会まで、残り1ヶ月半になり
実践形式の練習が続く。
マウンドには、顧問の一人、行武先生が立ち
バッティング投手をしてくれている。
行武先生は野球未経験者だ。
狙った所に、いつもボールが行くわけでなく
四球に一球ぐらいは明らかなボール球がくる。
その度に、行武先生は「ごめん、ごめん」と
謝るのだが、誰一人、それを責めたりしない。
何故なら、みんな行武先生が大好きだからだ。
俺だけでなく、野球部の全員がわかってたのは
行武先生は凄い努力をしているということだ。
野球未経験者が、小学生相手とは言え
3ヶ月でバッティング投手ができるように
なるなんて、普通はない。
そして、誰もが行武先生を好きなのは
優しさに加え、どれだけでも練習に
付き合ってくれる熱心さだ。
子供たちの望み通り、この日も、
かれこれ1時間以上バッティング投手を
してくれている。
マウンドに立つ行武先生は、
汗だくになっている。
それを見ていた、もう一人の顧問、
大村先生が言葉を発した。
「行武さん、代わりましょうか?」
大村先生は体育会系で野球経験者だ。
最終学年のクラスを持つ大村先生は
放課後、修学旅行に纏わる会議があったため
この日、野球部の練習への合流が遅れた。
グランドに来てすぐ、近くに居た5年生を
つかまえ、キャッチボールをして
急ピッチで肩を仕上げていた。
ちなみに大村先生は俺の担任でもある。
大村先生の言葉に行武先生は
「お願いします。流石に疲れてきました」
と笑顔で返した。
その言葉を聞いた大村先生は
小走りでマウンドに向かい、
行武先生からボールを受け取った。
ボールを渡した行武先生はマウンドを降りた。
大村先生は3球だけピッチング練習をした後、
次の子に、打席に入るよう促した。
大会が迫っているが、バッティング練習は
ベンチ入りの子だけでなく6年生全員が行う。
それが、大村先生の方針である。
打席に立つ子以外は、自分のポジションで
守備につく。
これも先生の方針で、レギュラーだけでなく
控えの子とも、交代しながら
ポジションにつく。
ただキャッチャーである私に控えはいない。
たまにセカンドかサードのレギュラーの子が
私の代わりにキャッチャーに入ることもある。
ただ平日の練習で、それが行われることは
まずない。
この日も自分の打席以外、ずっと投手の球を
受け続けていた。
大村先生にバッティング投手が代わっての
打撃練習は、1人目から2人目の子に
打者が変わった。と、その時俺は、
校舎からマウンドめがけて駆け寄ってくる
女性教師の姿に気づいた。
大村先生は気付いてない。
何か用事があるなら、外野の後ろで
球拾いに立っている子たちに頼んで、
大村先生を呼んでもらえばいいようなものだが
そうしなかった。
遠目にも慌てているのがわかった。
それに気付かず、打者に向かって
大村先生が投げたボールに打者は空振りした。
その球を受けた俺は、返球せずマスクを外し
大村先生に言った。
「先生、崎田先生が何か用があるみたいです」
そう言ってキャッチャーミットをはめた左手で
大村先生の後ろを指差した。
そして、ミットが指し示す方を、
大村先生が振り返った。
大村先生と目が合った崎田先生は
「大村先生、大変です」と叫びながら
マウンドめがけて走ってきた。
そして何やら大村先生に小声で話しはじめた。
それを聞いた大村先生が「え!」と
言ったのが聞こえた。
大村先生は慌てて、大きな声で言った。
「ごめん、今日の練習は終了だ。
みんなすぐに下校してくれ」
そう言った後、大村先生はグランドの
反対側で練習をしている
ソフトボール部の方に大声で言葉を発した。
「大森さーん、職員室戻って」
大森先生はソフトボール部の顧問で、
大村先生と同じで、6年生のクラスを
受け持っている。
大森先生は事態がわからないまま、
職員室の方に向かい、途中で大村先生と
合流して短い話をしていた。
その話の後、大森先生も慌てた様子で
事の成り行きを見ている
ソフトボール部の子たちに向かい大声で言った
「今日の練習は終わり。
悪いが、みんな、すぐに下校して」
大村先生と同じ内容だった。
行武先生は練習後の挨拶を受けてくれた後
職員室に小走りで戻っていった。
行武先生も何があったのかは
知らないようだが、緊急事態だとは
思っていた。
野球部員たちが後片付けをはじめた。
その中の1人に向かい、俺は言った。
「岡村、悪い、5年でソフトボール部の
トンボかけを手伝ってやってくれないか。
ソフト部、人数少ないから。
こっちは、6年でやるから」
それを聞いた岡村は大きな声で
「5年集合!ソフト部の片付け行くぞ」
と言った。岡村は5年生だが
ファーストのレギュラー争いに加わる子だ。
何かを察した俺たちは急いで
グランド整備を終わらせ下校した。
俺は帰りがけに、職員室に立ち寄り
誰にというわけでなく言った。
「野球部と、ソフト部、終了しました。
全員下校します」
それを聞いた、安藤先生が言葉を返した。
「千葉、ありがとな。了解。
気をつけて帰れよ」
安藤先生は4年のクラスの担任で、
陸上部の顧問だ。
職員室を出た俺は、酒井君と一緒に帰った。
酒井君は近所に住んでいるが
不思議と5年生まで同じクラスに
なったことはなかった。
しかし6年生で同じクラスになった酒井君は
「面白そうだから。それに小学校最後の
思い出にもなるし。」という理由で
6年生から野球部に入った。
運動神経の良い酒井君だが、
サッカー少年だったので、
あまり野球はしてなかった。
しかし、あっという間にファーストの
レギュラーになった。
さっきの岡村とレギュラー争いをしてるが
起用なので外野もこなせる。
だからポジションはどこであれ
レギュラーは確定している。
帰り道「何があったんだろうね」
という会話になったが、
当然ながら答えは出なかった。
『突然の別れ』
翌朝起きて、身支度を済ませ、
朝食を食べるために食卓についた。
父は仕事のため、とうに出掛けた。
食卓に置かれた新聞を開いた。
普段はテレビ欄とスポーツ欄しか見ないが
この日は気になり、地域欄を開いた。
俺が住むM区は、名古屋市にあるが
中心部からはかなり離れた場所で
家や学校の周りには
田んぼが広がるような場所だ。
それもありM区だけの地域欄が新聞にある。
嫌な予感がしながら開いたページの
ある見出しにすぐに目が留まった。
「名鉄踏切事故 女児死亡」
俺は朝食に手もつけず、記事を読んだ。
そこには知っている名前があった。
「死亡したのは、小学六年生の
櫻田麗子さん(12歳)」
結局、その日は朝食を食べずに家を出た。
俺が通う小学校は集団登校をしている。
エリア単位で「班」が組まれ
その「班」の1年生から6年生までが
一緒に登校する。
「班」の集合場所に向かうと、
同じ6年生の酒井君と一色君、
そして大木さんが既に居た。
近づく俺に、一色君が気付き声をかけてきた。
「新聞見た?」俺は頷いた。
その後、会話は続かなかった。
俺が通う小学校は、元々、隣の学区の
小学校の分校としてできた。
なので一学年3クラスほどの小さい学校だ。
それもあり、同じ学年の子たちは
みんな互いに知っている。
私は麗子とは3・4年生が同じクラスだった。
確か麗子は3年生で転校してきた。
学区内に、とある大企業の社宅があり
そこに住んでいたので、父親の転勤のため
引っ越してきたのだろう。
「何でこんなことに・・・」
そんな事を思い、立ち尽くしていると
後ろから、何かがぶつかってきた。
『大きなランドセルのあの子』
振り返るとそこには、大きな赤い
ランドセルを背負った酒井亜理砂が
笑いながら立っていた。
大きなランドセルと言ったが
ランドセルが人より大きいわけではなく
1年生の亜理砂の小さい体からすると
大きく見えるだけだ。
同じ「班」の亜理砂は、なぜか
俺になついている。
因みに「酒井」という名字ではあるが
同級生の酒井君とは無関係だ。
うちの小学校には、入学したての
1年生と6年生の「合同授業」というものが
週に2~3回あり、6年生が1年生の教室に行き、
一緒に授業をする。
授業と言っても、学校の中を探検したり
ゲームをしたりするもので、
1年生を学校に慣れさせるためのものだと
思われる。
自分が1年生の時にはなかったものだが
6年生と、1年生の同じクラスがペアになり
毎回同じクラスに行く。
俺は6年2組だが、目の前に居る亜理砂は
1年2組なので、同じ「合同授業」クラスだ。
余談だが、6年生は自分のクラスから
椅子を持って行き、1年生の横に座るが、
何故か、亜理砂だけは、俺の膝の上に
座ることを、担任から認められている。
(いや、なんでだよ、、笑)
そもそもペアのクラスは決められているが
ペアになる子は、その都度違う。
だが亜理砂だけは、俺がペアになると
何故か決まっている。
何故かはわからないが、それくらい、
亜理砂は俺になついている。
そんな亜理砂が、いつも通り、
私にしがみついたりしてちょっかいをかける。
しかし、この日、俺の反応があまりないので
彼女なりに何かを察したのか、
その日は黙って、俺の手を握って
学校まで登校した。
学校に着いても亜理砂は
俺の手を握ったままだったが
1年生と6年生は教室の階が違う。
階段の登り口で別れるが、
亜理砂は黙って、俺の手を強く握ってから
やっと手を離して、走って自分の教室に行った
俺は階段を上がり、酒井君とともに
教室に入った。すると至るところで
女子が泣いていた。
小学生だからと言って、皆、身近な人の
「死」に直面したことがないかと言えば
決してそうではないだろう。
祖父母の年齢によっては、
身内の「死」を経験したことがある子も
居るはずだ。
しかし、昨日まで一緒に過ごしていた
友人の予期せぬ「死」は、
恐らく、それとも少し違うだろう。
そして、それは心にぽっかりと穴を開け、
人には「別れ」というものが
いつの日か必ず訪れるということを
子供たちに自覚させるものとなった。
大人になるまでに、誰しもが
いつかは気付くことだが
何の前触れもなく、俺を含めた
この学校の6年生は、その真理に気づいた。
その日、1時間目は緊急の全校集会となった。
その場で事故の事とともに、その日は
3時間目までの短縮となることが伝えられた。
俺の小学校には給食調理施設があったため
いつもより時間を早め、3時間目のあとに
給食をとり、下校という予定に変更された。
2時間目は学級会となり、クラスで
事故の事が話し合われた。
あちらこちらですすり泣きが止まらない。
ふと、窓の外を見て、ある事に気づいた。
校旗が半旗になっていない。
2時間目が終わったあと、担任の大村先生に
「校旗が半旗になってないので、
直してきましょうか?」
その言葉を聞いた大村先生も窓の外を見て
「ほんとだなぁ、うっかりしてた。
悪いが千葉、大木と一緒に直してくれるか?」
俺は「はい」と言い、教室を出て、
隣の3組をのぞきこみ、大木を見つけ言った。
「大木さん、校旗が半旗になってないから
直しに行くの、手伝ってくれない?」
大木は頷いて、私の元へ来た。
大木雅代は、同じ集団登校「班」であると
同時に、同じ生徒会だ。
大木が会長で、私が副会長だ。
その大木も目を赤く腫らしていた。
校庭に降り、校旗を直していると
1年生のクラスを受け持つ石原先生が、
近づいてきて話かけてきた。
石原先生は、俺が4年生の時の担任だが、
今は1年生の担任で、たまたまだが
亜理砂のクラスの担任だ。
「大木さん、千葉くん、ありがとう。
そう言えば、加藤さんに言ってなかった」
加藤は、この学校の用務員だ。
生徒からも「用務員さん」ではなく、
名前で呼ばれるほど慕われている。
石原先生が続ける。
「麗子ちゃんのこと、びっくりしたよね」
その言葉を聞いて、俺は涙が溢れた。
横を見ると、雅代も泣いている。
どちらが先に泣いたかわからないが
2人とも泣いていた。
『麗子ちゃんと呼ばれ慕われるあの子』
亡くなった櫻田麗子は、皆から、
名字ではなく「麗子ちゃん」と
名前で呼ばれていた。
少し小柄な麗子は、いつも笑顔を絶やさず
ニコニコしていたので、「麗子ちゃん」と
呼びたくなる雰囲気を醸し出していた。
そして、その笑顔を思い出したことで
声を出すほど、嗚咽することになった。
石原先生は穏やかな表情で、
私たちの気持ちが落ち着くのを
待ってくれていた。
まず私が落ち着いたのを見て、
石原先生は言葉をかけた。
「今の6年生は、クラスとか関係なく、
本当に仲が良いからショックだと思う。
でも、麗子ちゃんのためにも、
小学校最後の年を楽しんで頑張らなきゃね、
それに、今日、亜理砂ちゃんも
元気がないのよ。千葉くんが元気ないと
亜理砂ちゃんにも伝染するみたいよ」
そう言って微笑んだ。
石原先生なりに、俺を元気づけてくれる
ための言葉だったんだと思う。
石原先生に「そうですね、麗子ちゃんを
心配がらせないためにも、
小学校最後の年を悔いのないものにします」
と伝え、教室に戻った。
午前中の授業を終え、給食を食べたあと
下校した。今日は部活も中止となった。
俺の小学校は登校は集団だが、
下校は「班」はない。
酒井君と帰っていると、後ろから
声を掛けられた。
振り向くと1組の岡島君が居た。
岡島君は私の親友だ。
以前は、近所に住んでいて同じ班だったが
4年生の時に、同じ学区内で、
岡島君が引っ越しをし、違う「班」になった。
ただ学校からは、同じ方向なので
途中までは同じ道だ。
今でこそ、生徒会の副会長もしてるが、
俺は元来、体も弱く、引っ込み思案だったので
いつも岡島君の後ろについていたような
子だった。だから、今でも、岡島君と居ると
底知れぬ安心感がある。
麗子ちゃんの突然の死に直面した今も
同じだ。
ふと、その時、前を見ると、大きな
ランドセルが2つ歩いているのが見えた。
実際には、ランドセルが歩くわけはなく
体の小さい低学年の子たちが
下校している光景だった。
追いつこうとしたわけではなく、
歩くスピードの違いから、俺たちは自然と
その”歩くランドセル”の背後まで来た。
そのうち1つが身にまとっていた、
ピンクのシャツとグリーンのチェックの
スカートは、今朝、見たのを覚えていた。
俺は、気づかれないように静かに近づき、
そのランドセルをそっと引っ張った。
すると、その子は前に行く力を突然奪われ
その場で足踏みをするような形になった。
そして、こちらを振り返り、言った。
「やっぱりお前か!こんなことするのは、
お兄ちゃんぐらいしかいないからわかったよ」
そう言ったのは、亜理砂だった。
そして、満面の笑みを浮かべながら、
俺に体当たりをくらわしてきた。
まとわりついてくる亜理砂の動きを止めるため
俺は、亜理砂を抱え上げ、わざと
「たかい、たか~い」と言った。
亜理砂は「やめろ、赤ちゃんじゃない」
と言い、じたばたしていた。
小学校6年生の力では、1年生とは言え、
暴れられると、そのまま抱き上げているのは
難しかった。
突然訪れた友人の「死」により、
心にぽっかりと穴が開き、
そして、いつしか人との別れは必ず訪れる
という真理に気づいた。
一方で、今この時間は、それでも続く日常に
常に前を向いて進んでいかなければならない
ということを自覚させてくれた。
それにしても、亜理砂の俺に対する”攻撃”は
手を緩めることはない。
『回想の果てに』
そんな小学校の頃の出来事への回想を
深めた理由は明らかだった。
そのうちの1つは、今、目の前にいる
女子高生との遭遇からだ。
今年、大学最後の年を迎える俺は、今日、
研究室から出て、バイトに向かおうとしたら
今、目の前に居る女子高生に呼び止められた。
その女子高生は、俺の通う大学の付属高校の
生徒だ。
ただ、付属高校と言っても区画は別で、
校内で顔を合わせることは、まずない。
流石に、制服が付属高校のものであること
ぐらいはわかる。
しかし彼女のことはわからなかった、
名前を聞くまでは。
彼女の名前を聞いて、記憶にある
同じ名前の子の顔と重ねてみるが、
どうやっても一致しない。
彼女は、あの亜理砂だった。
小学校を卒業してから、亜理砂と会う機会は
なかった。同じ町内だったが、それほど
家が近かったわけでもないので、小学校を
卒業したら、会う機会はなかった。
なので彼女がどこの高校に進学したかなど
知る術がなかった。が、実は、私が通う
大学の付属高校だったのだ。
亜理砂は、以前、学校の近くで俺を見かけ
気づいていたようだが、本当に俺であると
自信がなかったため声をかけなかったらしい。
ただ先日、バスが同じだったらしく、車内で
友人との会話を聞き、友人が呼ぶ名前を聞き
俺であると確信したらしい。
その時は友人も居たので話かけられなかったが
今日、帰りに、一人でいる俺を偶然みかけ
声をかけてきてくれたらしい。
一緒にバスに乗り、最寄り駅のカフェで
お茶をすることにした。
ちなみに最初に聞かれたのが、
「何て呼べばいいですか?」だった事に
おかしくなり、爆笑した。
確かに、小学校の時、亜理砂から、
「千葉」という名字で呼ばれた事はなかった。
「あんた」とか「お前」とか呼ばれることも
あったが、大概は「お兄ちゃん」だった。
とは言え、いきなり「お兄ちゃん」と
呼んでいいものか悩んで、聞いたらしい。
言われれば、たしかにそうだが、
「お兄ちゃん」でいいよ、と言った。
亜理砂との偶然の再会に、
思い出すエピソードが、小学6年生の
あの日の麗子ちゃんの死だったのには
もう1つ理由がある。
最近、同じ研究室の仲間が、
その中で作ったあるグループLINEから
何も言わず出ていった。
その子の名前が麗子ちゃんと同じ
櫻田だからだ。
ちなみに研究室には来ていて、
会えば、普通に話している。
そのグループLINE自体、研究室全体のもの
などではなく、研究室の最初の飲み会で
たまたま同じテーブルになったメンバーで
盛り上がってつくったグループLINEだった。
なので、それほど活発に”動いて”いたわけでは
なかったが、それなりにやりとりはあった。
それが、ある日突然、何も告げず、櫻田は
そのグループLINEから出ていった。
「なぜだろう?」という思いがあり、
亜理砂と会ったことで、
自然と回想した小学校時代の
エピソードの中から、
同じ「櫻田」が出てくる麗子ちゃんの
エピソードに思いを巡らせていた。
そして、再び麗子ちゃんの事を思った。
「麗子ちゃんは、どうして死んだんだろう」
踏切事故と言えばそうなのだが、
「なぜ?」という思いがつきまとう。
麗子ちゃんは、いつも笑顔が絶えない子で
自ら命を絶つということは決してないだろう。
勿論、学校以外のところで何か悩みが
あった可能性もあるが、しかし、
麗子ちゃんはそんなことに負ける子じゃない。
一方で、麗子ちゃんは、”悪い”とわかって
ルールを破るような子でもない。
その踏切は遮断機はなかったが踏切音は鳴る。
音が鳴っているのに、踏み切りを
渡ろうと思うような子には思えない。
そして麗子ちゃんは、決して注意散漫な
子でもなかった。麗子ちゃんが、踏切音に
気づかないようなことは考えにくかった。
結局、答えはわからない。
答えがわからないまま、俺たちの前から
居なくなった。
その点では、同じ研究室の櫻田も同じかも
しれない。
ただ、麗子ちゃんは、伝えたくても
もう今は、それをすることはできない。
でも、同じ研究室の櫻田にはできる。
なのに、、、、
そう思った俺の口から、意識せず
1つのフレーズが出た
「結局、気持ちは自分で言わないと
何も伝わらないのになあ」
櫻田との事を亜理砂に話す必要はなかったが
亜理砂が以前、バスで見かけた時に
一緒に居たのが櫻田だったので、
何となく流れから、この前にその話もした。
だから亜理砂にも、櫻田のことだとは
わかるだろうなあと思い、特段、
そのフレーズを補足するようなことは
しなかった。
そのフレーズを聞いた亜理砂は、
少し間を置き、俺の方を見て言った。
「そうですよね、自分で言わないと
伝わらないですよね。
じゃあ、言います」
私は、その意図がわからず
ぽかんとしていた。亜理砂は、
それに構わず、言葉を続けた。
「あの、私、お兄ちゃんの彼女に
立候補します。さっき彼女いないって
言ったましたよね。
小学校の時から好きでした」
小学校1年生の時に、
亜理砂が、俺のことを好きだという事は
気づいていた。
いや、俺だけでなく、先生も含めた
全員が気づいていただろう。
ただ、それは小さい子によくあること
だとも思っていた。
だから、今日、久々に再開したからと言って
その頃の思いが、今も”有効”だとは
思ってなかった。
亜理砂が偶然の再会で、冷静な判断力を
失っていると思い、流石に再考を促した。
すると、亜理砂は言った。
「お兄ちゃんは、私のことは、ずっと
忘れてたでしょうけど、私は、
ずっと好きでした。
実は、お兄ちゃんが高校入るぐらいまでは、
毎年、バレンタインには、告白しようと
家の前まで行ってたんです。
でも、勇気出なくて、言えなかった」
まさか、「たかい、たか~い」をした子が
こんな大人になるとは、
あの日に、そんなことは想像できなかった。
(終わり)
何となく思いつきで書きました(笑)
いや、今朝、早く目が覚めちゃったんで
暇つぶしを兼ねて(笑)
なので、この先にはじまる
小説とは、関連性はありません。
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