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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』11/30(土) 【第77話 今日は、何月何日ですか?】

拓也は言った。「刑事さん、私医者なんです。
患者さん、診てあげてもいいですか?」
その刑事は少し迷ったあと、頷いて、
「お願いします」と言った。

拓也は、脈をとったり、口元に耳を近づけ
呼吸をみたりした。
それから瞳孔を確認しようと、
瞼を開けて見ると、目が白濁していた。
拓也は横にいる、莉子に尋ねた。
 
拓也「妹さん、もしかして、
目も見えなかったのですか?」
莉子は静かに頷いた。

横で救急隊員が、通信機で症状を伝えている。
その横の救急隊員に向かって、
拓也は首を横に振って合図をした。

救急隊員は俯き、横で連絡をしている
同僚の背中を軽く叩き、何かの合図をした。
救急隊員は連絡をやめ、莉子の妹を救急車へ
搬入をはじめた。
 
1人の救急隊員が刑事に耳打ちした。そして、
その刑事は莉子に向かって言った。
「お姉さん、もし妹さんの病院に付き添える、
他のご家族がいらっしゃったら
呼んでもらえますか?」

莉子「生憎、父は、今、旅行に行ってるので。
母はもう亡くなっていて、私以外には・・・」
その言葉を聞いた刑事は
制服警察官に向かって言った。
 
「今から救急車で搬送する、お前、お姉さんに
付き添え。」その言葉の後、莉子に尋ねた。
「私、光が丘署の千葉と言います。
すみませんがお名前と年齢を
お聞きしていいですか?
お姉さんと、妹さんの」莉子は頷き、答えた。
 
莉子「私は、山崎莉子です。17歳です。
妹は、山崎 沙亜羅、12歳です」

千葉はメモをした後、莉子に向かって言った。
千葉「山崎莉子さん、それでは妹さんの病院に
付き添ってあげてください。

病院に行って落ち着いたら、後ほど、
お話を聞かせてください。
すみませんがむさくるしいやつが2人ほど、
同行させて頂きますが、
お気を悪くしないでください。」

千葉は搬送される山崎沙亜羅と、
それに付き添う莉子の姿が見えなくなってから
振り返った。
 
千葉「それでは順番にお話を聞かせて下さい。
じゃあ、辻本さんは、こちらで。
おい、牟田、お前は、そちらの方から、
お話を伺ってくれ」そう言って私のを見た。

そして、その刑事は、隆に向かって言った。
「すみませんが、少しお待ちください」
隆は頷いた。
 
20分程かけて3人が聞き取りをされ、そして、
その後、2人の刑事が、話をしている。
そして話が終わると千葉という刑事が言った。

千葉「皆さん、お手数ですが警察署のほうで、
もう少しお話を詳しくお伺いしたいのですが、
ご協力頂けますでしょうか?」 

3人は示し合わせることなく、全員が頷いた。
そして、パトカーで警察署に移動した。
 
警察署に着くと、3人とも2階を案内された。
そして、それぞれ違う部屋を案内された。

私も警察官に誘導されたのだが、
ドアを開けた警察官が中を見てお辞儀をし、
ドアを閉めた。どうも、私を案内する予定の
取調室が使用中だったらしい。
 
その警察官は慌てて横に居た警察官に向かい、
何かを指示した。そして、私に言った。

「櫻井さん、すみません、ちょっと別の部屋を
用意しますんで、ここのベンチで、もう少し、
待って頂いてもいいですか?」 私は頷いた。
30分程待った後、3階の取調室に案内された。
 
その部屋で私を案内してくれた警察官の人が、
私に質問をはじめた。
名前や住所などの質問が終わった時に
ドアがノックされ、先ほどの牟田という刑事が
入ってきた。

牟田は、質問をしていた警察官に耳打ちをし
その警察官と代わって私の対面に座り言った。
 
牟田「櫻井裕奈さん、今日は何月何日ですか」
予想もしない質問に驚いた。牟田は続けた。
牟田「正確でなくても、だいたいでいいです」
その言葉に、私は答えた。

裕奈「12月13日ですよねえ? 違いますか?」
明日が、ライブ配信日なので即答できた。
 牟田は少しの間、天井を見上げてから言った。

牟田「そうですか、櫻井さん、最初にさっきの
洋館にあるセラピーを訪れたのは
9月の下旬から、10月上旬にかけての
時期じゃないですか?」 

牟田に質問されたが、正直覚えていないので、
牟田の許可をとって、スマホの予定表を見た。
確かに最初は9月21日だった。
それを伝えると牟田は言った。
 
牟田「櫻井さん、今日は、10月24日なんです。
あなたが、セラピーを訪れてから、
1か月しか経ってません」
 
私が、理解できないでいると、
この牟田という刑事が説明をしてくれた。

牟田「実は櫻井さんだけでなく、
辻本さんも、佐藤さんも
今日が12月上旬だと言ってました。
そして、9月下旬から、10月上旬に、
初めてあの洋館を訪れ、数回受診したと。

しかし、捜査員がセラピーにあったリストを
確認しましたが、皆さん、初回以降は、
受診されてません。
そして恐らく皆さんがこの2か月で体験したと
思っていることは、“幻覚”です。」
 
私は、全く状況を理解できてない。
その中で、やっと、言葉を絞り出した。
裕奈「それで、翔は、今どこに居るんですか?
翔は無事ですか?翔に会いたい・・・」

そこまで言った後、
私は目から溢れる涙を、
止めることができなくなっていた。
 
(第77話 終わり) 次回12/3(火)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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