小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』11/19(火) 【第72話 呪われし運命を背負って生まれた娘】
莉子が5歳の時、母のお腹に妹を授かった。
母は美人で、優しく、莉子の自慢だった。
決して莉子が特別でなく、弟や妹ができると、
嬉しい反面、今後母を独り占めできなくなる、
という感情を抱くことはあるだろう。
莉子にとって自慢の母だったので尚更だった。
ただ、莉子がそういった感情を持てば持つ程、
母の表情から生気が失われていくような気が、
なんとなくしていた。と同時に、莉子の心に、
誰かが直接話しかけている錯覚にも陥った。
それは、日が経つほどに酷くなり、
母のお腹が大きくなってくると、
しっかりとした言葉で聞こえるようになった。
そんな不思議な現象は、自分の身以外にも
降りかかった。
ある日、莉子は幼稚園で同じクラスの
男の子3人に人形を取り上げられ泣かされた。
特にいじめられた訳でなく、幼稚園ぐらいだと
些細な事で、そんなことが起こったりする。
もしかしたら、莉子に好意を持っている子が、
気を引くためにしたのかもしれない。
その翌日、その男の子3人は事故にあったり、
階段から落ちたりして、大怪我を負った。
不思議なのは、3人が3人とも、
声がして、その声に操られ道に飛び出したり、
歩道橋の階段の一番上から飛び降りたり、
ベランダから飛び降りたと証言した。
その話を聞いた莉子も、気味が悪い、
と思ったのを覚えている。
そして、その不思議な現象は更に増えていた。
そういった不幸が起こるのは決まって
莉子と関わったトラブルの後、
その相手に起こった。
ある時、給食を食べている莉子のデザートを、
奪った子がいた。その子からすると、
冗談半分だったのだろうが、莉子は泣いた。
そして、給食のあと泣きべそをかきながら、
座って園庭を見ていると、莉子の心の中に、
「そこから飛び降りろ、今すぐ飛び降りろ」
という声が聞こえた。
莉子は怖くなって耳を塞いだが、視線の先の、
ジャングルジムの一番高い所に昇っていた子が急にジャングルジムから飛び降りた。
地面にたたきつけられ落ちた、その男の子は、
先程、莉子のデザートを取った子だった。
友達に紛れ、莉子も近づいてみると、
その子は、泣きながら叫んでいた
「怖いよ、怖いよ、誰かが今すぐ飛び降りろ!
って脅かしたんだ」
それを聞いた莉子は怖くなった。
自分の心に声が聞こえるだけでなく、
かかわった人にも悪魔の声が聞こえて
不幸が起こっている事が、怖くなった。
莉子は、その出来事以来、他の子どもたちとは
距離を置くようになっていた。当然の事だが、
幼稚園が楽しくなくなり、休みがちになった。
その出来事から、4か月後に妹が生まれた。
しかし妹は目が見えず、耳も聴こえなかった。
また不思議なことにあまり泣かなかった。
妹を産んでから母はかなり顔色が悪くなり、
塞ぎがちになった。そして言動もなんとなく、
おかしくなっていった。
そんなある日、母は自殺した。
それも、莉子が見ている前で、
自分の喉を包丁で刺した。
妹をのせたゆり籠の横で自殺した。
いつもより様子がおかしい母に
莉子が近づこうとしたら、
手に包丁を持ち、莉子の方に向け
「近づいちゃダメ、それ以上。
莉子は近づかないで!」
そう言うと同時に、包丁の刃先を自分に向け、
喉を一刺しした。その光景に、
莉子は気絶をしてしまい、その後の記憶はない
母が自ら命を絶った後、父の姉という人物が、
一緒に住むようになった。
大人たちが、決めたことなので、
なぜかはわからない。
大きくなってからわかったが、父親はかなり
怪しい仕事をしてたようだ。
父の姉という人もどちらかと言えば、
その世界の人間だった。
何を収入源にしていたのかはわからないが、
経済的に裕福ではないが困ることもなかった。
母の死後も、私の心に話しかける声は止まず、
頻度も増えていった。それと比例するように
私の周囲での不幸な出来事も増えていった。
そんな私を恐れ、私に近づく人は居なかった。
私は、いつも独りぼっちだった。
また、物を隠されるような、
直接対面しない嫌がらせを、
度々受けるようになった。
小学4年だったある日、体育の授業が終わり、
教室に戻ると、私の教科書や、ノートが全て、
ごみ箱に捨てられていた。
私は一人、ごみ箱から教科書等を拾っていた。
その光景に危害を加える人は居ない一方で、
手を差し伸べる人も一人も居ない。
そのことを、特段何とも思ってはなかった。
が、その時は、後ろから声がした。
颯太「山崎さん、大丈夫?この教科書とか、
拭いて、机に持っていけばいい?手伝うよ」
声を掛けてきたのは隣のクラスの男子だった。
(第72話 終わり) 次回11/21(木)投稿予定
★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0
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