小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』10/1(火) 【第55話 仮想】
翔の家に泊まらせてもらうことになった後、
一番風呂を勧められたが、必死に断った。
結局、父の直樹が最初に入ることになった。
そして、直樹が入浴している間に、
凛が、部屋から着替えを持ってきた。
パジャマと下着だ。凛が手渡しながら言った。
凛「寝るときブラつけないから、
ナイトブラ、持ってないんだ、ごめん」
私は返した。
裕奈「ありがとうございます。お借りします。
私もつけないですし、そもそも貧乳だから、
お姉さんのだとブカブカになっちゃう、、」
と返しながら、手元の下着を見て止まった。
Tバックで、前の部分も布の面積が小さく、
所々透けている。凛に近づき小声で言った。
裕奈「お姉さん、この下着、過激過ぎません?
なんか、たくらんでます?」
と聞くと、凛は真面目な顔で返した。
「そう? 私こういうのしか持ってなくて、
むしろ落ち着いたやつを選んだつもりだけど。
裕奈ちゃん、こういうのあまり履かない?
結構、楽だよ、こういうの。
それから今日は、私、お母さんと寝るから
裕奈ちゃんは、私のベッド使って。」
翔が特別というわけではなく、
谷川家の人は、みんな気遣いが凄い。
それが押し付けでなく何気なくできることが
更に凄いと感じる。
凛の言葉に甘えて荷物を持って上がろうと、
鞄をもった時、中で弁当箱が揺れる音がした。
その音で弁当箱の存在を思い出し
台所に居た翔に言った。
裕奈「ごめん、お弁当箱、洗わせて?
冬場とは言え、さすがにこのままだと。」
私の言葉に、翔は、もちろん、と言った。
素早く弁当箱を洗い、軽く拭いて
鞄にしまおうとしたら、翔が言った。
翔「鞄の中濡れちゃうから、
この乾燥機に入れておけよ。
弁当箱一つ増えたからって、
何も変わらないから。」
確かにその通りだと思い、乾燥機の
端の方に、入れさせてもらった。
その時、直樹が「お先に」と言って出てきた。
母親と姉が、凜の寝床の準備でいないので、
私が次に入るように勧められた。
恐縮したが余り待たせてはいけないと思い、
好意に甘え、お風呂に向かった。」
洗面所には、既にバスタオルやドライヤー、
タオル、着替え、歯磨きなどが用意されてた。
その気遣いに感謝し、遅くならないようにと、
急いで入浴を済ませ、着替えた。
凛に借りた下着を履いたが、
ほとんどの部分が隠れていない
気がして何か変な気分だ。
一応、透けていないかを鏡で確認した。
私がリビングに戻ると母と凛も戻っていた。
私が「お先でした。ありがとうございます」
と言うと、凛が迷わず立ち上がり言った。
凛「私、入る。翔だと、祐奈ちゃんの
残り湯を飲みそうだから、
お湯を上書きしてくるわ」
凛の言葉に翔は「そんなことしないよ」と、
言ったが私を含め、みんな笑っている。
笑いながらも、母親だけは
「もう、あんたたち下品なんだから。」
と言っている。そのあとも、
日付が変わるまで、会話が弾んだ。
時間に気づいた、母親が言った。
「そろそろ祐奈ちゃん休ませてあげないと」
の言葉で、お開きになった。
翌朝起きて身支度をしている。
翔の家でしてるのがとても不思議な気分だ。
メイクは、普段からあまりしていないので、
携帯しているもので十分なのだが、
朝になり気づいたが、登校するのに
ブラがない?と思った。
凛に借りたとしても、ブカブカは確定。
たぶんつけている意味がないほどの、
空間が出来る。どうしようかと
思ってたら洗面所に凛が来た。
凛「考えたら、ブラないよね?
こんなのしかないけど、ブラトップ着る?」
と手渡してくれたのは
カップ付インナーだった。
凛のものなので多少ブカブカするが、
ブラよりは大丈夫そうだ。
そうなると俄然気になるのはスカートの下だ。
昨晩はパジャマだったからよかったのだが、
スカートの下に、あの下着をつけることは、
かなり勇気がいる。
かと言って、昨日と同じ下着をつけることは
もっと抵抗がある。
結局、選択肢がないと気付き観念した。
ダイニングに行くと朝食が準備されていた。
私はお礼を言いながら朝食をとった。
父の直樹はもう出かけようとしている。
直樹「裕奈ちゃん、懲りずにまた来てな。」
その言葉を残して、早足で出かけていった。
私が朝食を食べ終わり、歯磨きを終わらせ、
鞄をリビングに取りに行くと、
食卓の上には、弁当が2つ用意されていた。
そのときまで乾燥機の弁当箱を忘れていた。
昼食は途中で買えばいいとは思っていたが、
弁当箱だけ忘れないようにとは思っていた。
まさか私の分のお弁当まで
用意されているとは思わなかった。
涙が出てしまった。
私は泣きながら翔のお母さんに
お礼を言った。母親は言った。
「気にしないで、裕奈ちゃんの分を作るのは、
翔のほうを、手を抜いて帳尻あわせたから。
同じお弁当だと怪しまれるかもしれないから、
中のおかずは、変えておいたわよ。」
気づかなかったのだが確かに違うおかずだ。
そんな手間をかけてくれることに感謝した。
再び、母親にお礼を言った。
登校時間になり翔と2人で一緒に家を出た。
なんとなく、くすぐったい気持ちだ。
まるで谷川家の一員ような感覚と、
そして翔と恋人のような感覚を、
同時に感じられた、幸せな朝だった。
そして、そんな日が本当に来ることを
心から願っている、自分がいた。
(第55話 終わり) 次回10/3(木)投稿予定
★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0
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