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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』10/22(火) 【第64話 恋人】

私が尋ねると、クラスメイト達が笑いながら、
教えてくれた。

授業の中で証明されていない定理の話になり、
その中でフェルマーの最終定理の話に
なったのだが、寺山先生が、翔に、
「何っていう定理か知っているか?」
と聞いたところ、翔のアホが
ユウナーの最終定理と答えたらしい。
 
すると、寺山先生が
「あ、そういえば、今日、櫻井休みだな。
確かに会えないと寂しいよな、
あ、一応言っておく、非公式ではあるのだが、
うちの学校の先生たち、みんな
お前たちのこと応援してるぞ、
非公式だからな、非公式。」
クラスメイトはゲラゲラ笑っているのだが、
私は慌てて言った。
 
裕奈「え??ちょっと待って、いつの間に、
学校巻き込んだ、そんなことになってるの?
いや私たちビジネスカップルチャンネルだよ」 
私の言葉にクラスメイト達がニヤッと笑って
言った。
 
「いや、もうさぁ、キュンすぎて
半分願望かもしれんけど、みんな、
2人が恋人になったらいいなあと思ってるよ、
カッコ職員室含む」 
最後は多少の悪意を感じたが、
答えを返せないでいると畳みかけてきた。
 
「翔は絶対に裕奈のこと好きに決まってる。
で、どーなの?翔からコクられてるんでしょ?
オッケー出してないの、裕奈が?」 

私は、現実と真逆の解釈にあまりに驚いた。
そして言った。
 
裕奈「え?いやいやいや、なんでそう思う?  
全然違うよ!もう、どんなチャンスやっても、
あの草食動物野郎が全然言ってこないんだよ!
ありえる、そんなこと?」

完全に勢いで言った。しばらくの沈黙の後に、
クラスメイトたちの悲鳴に近い言葉があった。
 
「キャー、裕奈、翔のこと好きなんだ!!!
じゃあ、何故付き合わないんだよ、お前たち!
翔に選択権なんてないだろ!」

私は、その声の大きさに驚き、
人差し指を口にあてて言った。

「ちょっと、やめて、声大きい。
恥ずかしいからやめてよ、翔に聞こえちゃう」
 
その勢いのまま、私を含めた3人が、
翔に追いついた。
そして、クラスメイトが言った。

「翔、おはよう!ほら、裕奈と一緒だよー!
ねえ、テンション上がった?」

翔は「別に」と言ったが、クラスメイト達は、
はっきり聞こえるように「草」と返し言った。
 
「まあ、いいわ、私たち、先に行くからさぁ、
翔は昨日のユウナーの最終定理の話をちゃんと
裕奈に説明しておいてよ」
それを聞いて翔の顔が真っ赤になった。
私は言った。
 
裕奈「昨日、休むって、伝えてなかったのは、
ごめんだけど、そんなに落ち込まなくても」
翔「落ち込んでたわけじゃないよ、
ただ、心配だっただけだ」
 
裕奈「あ、そう」そう言って、
怒ったふりをして、わざと、
翔を置いて、歩いていった。

翔は慌てて「いや、そういう意味じゃなくて」
と言いながら、後ろから追いかけてきたので、
私は、翔が追い付く寸前に、右回りに
クルッと反転して、翔の後ろに回りこみ、
翔の右腕に、自分の左腕を絡ませた。
 
裕奈「ねえ、腕組んで学校行くのいやかな? 
やめてほしいんだったら、私に腕を組まれて、
どう思うか言ってみて?」

私の問いに、翔は意外とすぐに、答えた。
翔「櫻井、、、、胸、ちっちゃいよね?」 
あまりの怒りに持っていた鞄で
翔の頭を叩いて立ち去った。
 
教室では相変わらず翔を中心に輪ができる。
ただ、こらしめるために今日は何かの度に、
「そうだね、だって翔は〇〇星人だからねー」
とつけて、返している。
 
朝、一緒だったクラスメイトは何かを悟り、
「翔、結局胸のサイズか!わかった、私達が
責任を持って裕奈の貧乳を改善する!」
という言葉で爆笑を誘っていた。
 
私は、はっきり貧乳と言われ実は落ち込んだ。
勿論、自覚はしていたものの人に言われると、
割と傷つくもんなんだと知った。
 
授業が終わり、ふと翔を見ると、
鞄に教科書をしまっている最中だった。
私は声をかけた。

裕奈「おい、〇〇星人、帰るぞ。
私をこれだけ傷つけたんだから、
ケーキ奢ってくれ!」

翔「わかった。あ、でも、俺、
貧乳が嫌いってわけじゃないからね!」

裕奈「貧乳って言うな!」と言い笑いながら、
翔の頭を、ヘッドロックした。翔は言った。

翔「貧乳が当たってます」
裕奈「うるさい!」
 
クラスメイトの笑い声を背に教室を出た。
駅までの道を歩きながら、翔が言った。

翔「櫻井、だいぶ疲れてる?」私は返した。
裕奈「え?なんで、そう思うの?」
 
翔「いや、会話の合間で少しボーッと
している瞬間があるなあと思って」

裕奈「あ、そうかな?もし、そうだとしたら、
昨日慣れないことでバタバタしたからかも、
まだ少し疲れがあるのかもしれないのかなぁ。
心配してくれて、ありがとう」
 
そう返したが、確かに、翔が言うように、
実は朝から少し頭がボーっとしている。
催眠療法のせいだと思うが確信がないので
言うのはやめた。
 
(第64話 終わり) 次回10/24(木)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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