小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』5/25(土)【第7話　そして朝を迎える】

髪の香りの事を口にしたことで
警戒されてもおかしくなかった。
だが、晴香は気にしている様子はないようだ。
晴香に礼を言いながら、紙袋を受け取った。

私がキッチンで豚の角煮を
皿に盛っていると、晴香が言った。

晴香「何か、手伝えることありますか？」
拓也「じゃあ、、冷蔵庫に入っている料理を、
運んでもらえますか？」

晴香は頷き、冷蔵庫を開け
「これもですか？」と尋ねてきた。
私が「はい」と答えると、
冷蔵庫の中の料理を運んでくれた。
 
料理を運びながら、晴香は、どうしますか？ 
日本酒にします？それともビール？と尋ねた。

拓也「晴香さんにお任せします。
私は、明日も非番なので。」

晴香「私も明日非番ですよ。
じゃあ最初から、日本酒でいきますか？
この角煮、香りだけで、
日本酒に合いそうってわかりますから」
 
その言葉を聞き、食器棚から
陶器のグラスを、取り出した。
一通りの料理を食卓に並べ終わり席についた。
そして、日本酒を注いだグラスで乾杯をした。
 
晴香は真っ先に、角煮を口に運んだ。
そして、美味しいと言ってくれた。
勿論、それを額面通りに受け取りはしないが、
料理を褒められるのは素直に嬉しかった。
そんなこともあり、その後の会話も弾んだ。
 
今日は、努めて、愚痴っぽくは
ならないようにしようと思っていた。
なので病院の話題は避け、
お互いの生い立ちや趣味の話などを振った。

食卓に並べた料理が一通りなくなり、
日本酒も空いていた。
私は席を立ち晴香が持ってきてくれた
お菓子を皿にのせて食卓に置いた。
そして、晴香に尋ねた。
 
拓也「次、何飲みますか？」
晴香「辻本先生の、お好きなもの
がいいです。何にします？」
拓也「逆質問されたので
ハイボールにします？大丈夫ですか？」
 
晴香が頷くのを確かめ、
空になった皿を持ってキッチンに戻った。
晴香が片付けを手伝いますよと言ったが、
私は大丈夫ですから、と答えた。
 
手早く食器を洗い、冷凍庫からウィスキーと、
氷を出し、炭酸水と一緒に運んだ。
そして冷蔵庫の中から
チョコレートを出して、持ってきた。
 
拓也「ハイボールなら、
チョコレートも合うと思い買っておいたんです
あ、でも、これ、普通にスーパーに
売っているやつですけど。」

私はそう言いながら、
まずグラスに氷を入れ、ウィスキーを注ぐ。
そして、炭酸水を注いでレモン水を足した。
そのグラスを晴香に手渡しながら言った。
 
拓也「すみません、ハイボールの濃さの
希望を聞かなかったです。
これ、大丈夫でしたか？もし濃過ぎるなら、
私が、これを飲みますよ」
晴香「大丈夫です。残念ながら」と笑った。
 
更に話が盛り上がるのに比例する
かのように、アルコールも進んだ。
ただ先日と違いは、お互いの話が中心だった。

話題は各々の恋愛の話に移ったのだが、
あまり話の内容は覚えていない。
 
その話題の頃には、2人でリビングに移動し、
ソファに腰をかけていた。
その為、隣同士で接近して会話を続けていた。

そして、気づかないうちに
2人の間隔は徐々に狭くなってた。
私から近づいたのか？それとも晴香か？
或いはその両方か？はわからない。
 
晴香もかなり酔いがまわってきたからなのか、
ソファの背もたれに、頭を寝かせていた。
再び晴香の髪の香りが漂ってきた。

その香りに誘われるように、
私は、自分の腕を晴香の肩にまわした。
横目で晴香の顔を見たが
晴香も違和感を感じている様子はなかった。
 
その様子を見て、晴香の身体を、
一気に自分に抱き寄せた。
晴香の反応をあえて確かめる事はしなかった。

その代わりに、答えが出なかった
問いを再び、自らに問いかけてみた。
2人は、このあと、どうなっていくのか？

少なくとも、拒絶しない晴香の反応を見れば、
身体を重ねあう今の関係は暫く続くと思った。
 
そして抱き寄せた晴香は私に呼応するように、
自分の顔を、私の肩に埋もれさせた。
それを合図と捉えた私は、
晴香に覆い被さり、唇を重ねた。
そして唇が離れるのを待って、晴香は呟いた。
 
晴香「今日は、もうシャワー浴びてきたから、
ベッドに移動しない？」

晴香の言葉を聞いてもなお、
私は自分を抑えることなどできなかった。
その気持ちに晴香も共鳴したかのように、
この前の夜に増して晴香の吐息が激しかった。
 
そして、気づけば声を押し殺す
ことさえも、しなくなっていた。
どれくらいの時間が経っただろうか？
気づけば、疲れ果てた2人は
手を繋いだまま、眠りに堕ちていた。
 
外の物音で目が覚め、ふと時計に目をやると、
朝の8時前だった。
最初の朝と違うのは、横に晴香が居ることだ。

そして、手を繋いだまま、
朝を迎えたことに、少し驚いた。

(第7話　終わり)次回は5/28(火)投稿予定

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