小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』9/21(木) 【第51話　真実】

サイゼリアでの撮影が終わると夜8時だった。
翔に父親から、LINEが来ていたのだが、
仕事でちょうど近くに居るから、
車で乗せて帰ってくれることになった。
 
日曜日だったが今日は仕事だったらしく、
元々、翔からは撮影予定は聞いていたので、
帰りは車に乗せようと思ってくれてたらしい。
 
夏休みは毎日のように翔の家に行ってたので、
父親とも何度も、顔を合わせていた。
翔の父親もとても優しく、気さくな人だ。
翔の父はあと15分程でこの店に着くらしい。
 
それにしても、さっきから翔は、食べ過ぎで
辛そうだ。動画の面白さという観点もあるが、
私に無理させないよう、翔がほとんど食べた。
 
私が「大丈夫」と聞くと「大丈夫」と返すが、
あまり大丈夫そうには見えない。

そうこうしていると翔の父親から
到着したと連絡が来た。
私と、翔は荷物を持って店から出た。

駐車場に止まっている車は多くなかったので、
翔の父親の車はすぐに見つけることができた。
 
お礼を言いながら後部座席に乗ろうとしたが、
翔が言った。「あ、櫻井、荷物多いから、
俺が後ろに乗る。」　
その言葉を聞き、翔の父も言った。
 
直樹「あ、悪いけど、そうしてくれるか?
裕奈ちゃんが先に降りるだろうから、
荷物に埋もれてると降りにくいだろうし。」
 
私は2人の言葉を聞いて助手席のドアを開け、
「失礼します」と言って座った。
後部座席で、翔が荷物の整理が終わるのを
待って、走り出した。
 
車を運転しながら、翔の父親は撮影内容に
ついて尋ねてきた。ちなみに翔の家族全員、
このチャンネルには賛成で、応援している。
 
そんな会話の途中、ふと、バックミラーに
写った翔を見ると、何か、様子がおかしい。
徐々に、会話に入ってこなくなった。
そして交差点で止まった時に翔が言った。
 
翔「親父ごめん、俺トイレに行きたいから、
どこかのコンビニに止めて」と言った。

父親は言った「わかった。食べ過ぎたか？」
翔が頷いた。

直樹はナビを見ると、この交差点を左折して、
300m程でコンビニがあるのを見つけたので、
左折のウィンカーを出した。
 
幸い左折専用レーンはなく、
左車線に止まってたのは良かった。
青信号に変わり左折してすぐに、
コンビニが見えた。

駐車場に車をとめると、翔は慌てて車を降りて
店内に走った。おしりを抑えている。
直樹「あ、下からか、ま、どっちでもいいが」　
それを聞いて、私は笑った。直樹は続けた。

直樹「裕奈ちゃん、こんな遅くまでごめんな。
お母さん、心配してないか？」
翔の家族にはうちが母子家庭であることを、
伝えている。

私が、大丈夫です、今日は遅くなることを、
言ってきましたんで、と言うと直樹は続けた。
 
直樹「そうか、それならよかった。
翔が居ないから言うわけじゃないが
裕奈ちゃんには本当に感謝している。

やりたい事に打ち込んでいる翔を見るのは
初めてかもしれない。」
私は深い考えなく返した。

 「翔くん、YouTube好きですもんね」
直樹は一呼吸置いて返した。

直樹「そうだな。YouTubeだけに限らず
興味を持ったものが、今までも
あったんだろうけど、生い立ちのせいか、
あいつも無意識のうちに、自分の思うままに
やるってことに、踏み出せていなかった
ところがあったと思うんだよね。
 
自分のやりたい事のために周りに、
迷惑かけちゃいけない、ってのが
無意識にあるんだろうな。

勿論、私たち家族はあいつのやりたいことを
みんな、応援するつもりなんだけどな」

直樹の言葉が理解できなかった。
それを素直に聴き返した。
裕奈「生い立ちって、一体何のことですか？」
直樹は驚いたように、言った。

直樹「あれ？裕奈ちゃん、翔から聞いてない？
あれ、余計なこと言っちゃったかなあ。
まあ、でも、裕奈ちゃんは家族同然だから、
言っても別に問題ないだろう。」

そう言うと、直樹は少し間を空け、
語り始めた。
 
直樹「翔は、私と妻の、実の子供じゃない。
妻の兄の子供なんだ。」
それを聞いて、私は言葉を失っていた。
直樹は私の反応を気にすることなく、
話を続けた。
 
直樹「翔が3歳のときに兄夫婦が交通事故で
亡くなってしまったんだ。
うちの妻の両親はその時、かなり高齢だった。

それと、兄夫婦の家が、私たちの家と近くて、
それまでも頻繁に会ってたから、
翔が私達家族になついていた。
それもあり、私たちが引き取ることにした。
 
翔は実の甥っ子だから戸籍はそのままでも、
問題はなかったんだけど、全員で話し合って、
翔を養子にしたんだよ。

凛が「翔を弟にする」と一番主張してたけど、
私も、翔の事を自分の子供として育てる
という決心っを持ってから、
迷わず決めたんだ。」
 
私の理解が追い付かないままだった。
直樹は、一度、私の顔を見た。
 
(第51話　終わり) 次回9/24(火)投稿予定

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