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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』10/26(土) 【第66話 真相】

夕食の間は山形の病院の話や家の話などが、
中心だった。食事が終わりお風呂に入った。
 
いつもならば、入浴後は自分の部屋に入るが、
今日はもう少し父と話がしたいと思ったので、
リビングのソファに座った。

父の一時帰国は来週の火曜日に決まったので、
それまではこの家に居る。
父がお風呂から出てきたので、私は言った。
 
裕奈「ビールでも飲む?お父さん、
もう少し、話さない?」父は言った。

猛「裕奈がそう言ってくれるなら
もう1本だけ飲もうかな。」
父にビールとグラスを渡した。
父はそれを受け取り、ソファに腰をかけた。

私もコーヒーを入れて横に座った。
最初は、父が、私の学校の事などを
聞いてきた。

そんな他愛もない話が途切れたタイミングで、
父に、伝えておきたいことを言った。
 
裕奈「お父さん、実はお母さん離婚してから、
家でお酒を飲んでた、びっくりしたでしょ? 
お母さんお正月とか、そういう時だけ、
少しお酒飲むのは見たことあったんだけど、
最近、昼から飲むようになってたの」
 
父は私の言葉を聞いて少し間を空け言った。
猛「そうか、お酒はやめてなかったんだなあ。
裕奈は知らないだろうが、お母さんが、
お酒を飲んでたのは、ずっと前からだ。
たぶん裕奈が小さい時からじゃないかな」

父が驚くかと思ったが、逆に私の方が驚いた。
父は続けた。
 
猛「実は母さん、いわゆるアルコール依存症
だったんだ。だったというか、今もだろうな。
元々母さんは父さんと同じ高校の一年下だが、
父さんが就職してから、ある時仕事の関係で、
スナックに行ったら母さんが働いていたんだ。

いわゆる水商売ってやつだな。
その頃から母さんはお酒を飲んでたんだ。
父さんと違い、母さんは元々お酒が好きで、
強かったんだろうな。

ただ、お前がお腹にできてからはやめてた。
まあ、それは当然だろうが。
その時は、お酒はやめるって
言ってたんだけどな。
 
お前が小学校にあがったころからかな、
台所で隠れて飲むようになっていた。
最初のうちは、少しぐらいならば、
と思ってはいたんだけど、
だんだん量が増えてきて。

で、母さんの体が心配だから注意したら、
段々と、言い合うことも増えてしまった。
裕奈の前で言い合うことはなかったけどな。」
 
父と母が、離婚した原因をはじめて知った。
そして母が昔から“キッチンドランカー”
だったことは初めて知った。
私は、正直に聞いた。
 
裕奈「お父さんはお酒飲む母さんに呆れて、
家を出てったの?」
私のストレートな質問に父は戸惑いながら、
しかし誤魔化すことなく答えた。
 
猛「そうだな、結果的にはそうなるのかな。
裕奈が小学校に上がった頃から、
仕事で海外に行く話はあったんだよ。

ただ、母さん、決して順応性が高い
タイプじゃないだろ?
だから、断り続けていたんだよ。
 
たぶん知った人が居ない海外に行ったら、
もっとお酒に浸ると思ったのもある。
ただ母さんにしたら、自分の存在のせいで
父さんの仕事の邪魔をしているように
思ってしまって、自分を責めていたんだよ。

そして更にお酒の量が増える、正に悪循環だ。
 
幸いにして、裕奈はしっかり者だったから、
父さん、裕奈は心配していなかったんだけど、
母さん、このまま父さんと一緒に居たら、
もっと悪いことになると思ったんだ。

それに、海外への赴任を
断りきれなくなってたのもあったしな。
 
父さんからしたら、母さんは
高校時代のイメージのままだった。

母さんの良さがあり、それがわかっていて、
結婚をしたんだから、母さんのためなら
と思って、海外赴任を断ってたことも、
あくまで私の決断であって、
母さんは関係なかったんだが。

まあ、母さんは優しいから、自分の事を
責めてしまってたんだろうな。
 
母さん、高校のラグビー部で
マネージャーしてたんだよ。
父さんは、3年でスタンドオフで、
キャプテンだった。
花形ポジションなんだぞ。
まあ、弱小校だったけどな。
 
母さんは、大人しかったけど、
とても気がきく子だったから
すごく印象に残っていた。

当時、あまり喋らなかったのは、
後で聞くと山形弁の訛りがが
恥ずかしかったらしい。
 
ほら、お祖父ちゃんずっと山形だったけど、
一時だけど東京で仕事していた時があって、
その時、母さん高校受験だったんだ。
それで、入った高校が父さんと同じだった。
 
その後、お祖父ちゃん達は山形に戻ったが、
高校卒業を控えた母さんは東京に残った。

まあ、一人東京に残って苦労したんだと思う。
詳しくは知らないが、紆余曲折を経て
水商売をしてたらしい。
 
ほら、父さんお酒はあまり強くないからさ、
仕事でもあんまりそういう店は行かないが、
たまたま入った店で母さんと再会して
びっくりしたのを覚えている。

その時、連絡先を交換して、その後はたまに
会うようになったんだ。
 
お店に行けば母さんの給料になったんだが、
父さん、お酒弱いから店以外で会ってたんだ。
いつもニコニコして気配りがきく母さんは、
高校時代のマネージャーのままだったよ、、
あれ?何で、こんな話してるんだろう?」
 
父は、少し照れて手に持ったビールを一口、
口に運んだ。

どうして2人は離婚したのか?
そもそも、どうして一緒になったのか?
という疑問に加え、母が私の将来を憂い、
病の痛みを誤魔化すために
酒に溺れているのでは?
という疑念まで晴れた。
 
(第66話 終わり) 次回10/29(火)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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