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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』9/10(火) 【第46話 企画会議】

ファミレスでの話がかなり盛り上がり、
翌日の土曜、早速企画会議をする事になった。
場所は最寄り駅にあるカフェになった。
現れた翔は、パソコンを持ってきていた。
 
翔はパソコンを開いてパワーポイントで作った
企画資料を説明してくれた。昨日帰ってから、
たった一日で作りあげたらしい。
説明を聞き終わり、素直にその感想を伝えた。
 
裕奈「あのさぁ、ディスニーランド企画なら
たぶん1日では無理だから泊まりにしようよ。
そのほうが、絶対に良い動画になるって」
私の言葉になぜか、翔がモゾモゾしている。
 
裕奈「ごめん、私、予算とか考えてないから
思いつきで言っちゃった。だから参考程度ね。
私は一泊二日ぐらいで色々撮影したいなあ、
と思っただけ。」翔は慌てて返した。
 
翔「いや、櫻井さんからのご提案とあらば、
実現します!ちなみに桜井さんの親御さんは、
泊まりがけとか、許してくれる感じですか?」
私は翔のモゾモゾの理由がわかった。
そして、笑いながら返した。

裕奈「谷川くん!今、どんな妄想してた?
そういう、いやらしい目で私のこと見てたの?
これ、ビジネスカップルチャンネルでしょ?
そのコンセプトが、崩れちゃうよ!」
 
実は、ビジネスカップルチャンネルの提案は、
翔のパワーポイントの1ページ目にあった。

正直に言うと、よく理解していなかったので、
特段質問もせず説明の際にはスルーしたが、
このタイミングで役立つと思っていなかった。

ただ、このビジネスカップルというワードが、
この後、2人の関係で便利でありながらも、
もどかしいものでもあるということについて、
この時点では気づいていなかった。
 
色々2人で話しあった結果、最初の撮影は
24時間営業のスーパー銭湯になった。

泊りがけというものに、なぜかこだわる翔が、
私の親が許してくれそうな、ギリギリの線を
狙いにいった結果、そんなマニアックな企画に
落ち着いた。だったら、ディズニーランドで、
よかったのに、と私は思った
 
ただ、スーパー銭湯だと当然ながら、
浴場では撮影できないので共有スペースでの
撮影になる。だったら尺も限られるため、
泊まる必要はないという
当たり前の、方向転換がされた。

本当にこんな感じで、成立するのか?という
疑問を持ちながら、その日の撮影に臨んだ。

 
現地で集合してから、スーパー銭湯の外にある
ベンチで小一時間も打合せをした。
はっきり言って、面倒くさいと思った。

だが、撮影が始まりわかったのだが、
確かに入念な打ち合わせがあると、
カメラが回ってからすんなり入れると思った。

翔との打合せでは色んなパターンを想定した
打合せがされるので、予習はできている状態で
撮影では対応できる。凄いプロデュース力だ。
 
但し、翔が現場での対応で指南する方向性は
ほとんどが、面白くない結果になる。

コンビ結成1日目で気づいたが、
翔は本当に優秀なプロデューサーだと思う。
一方でだが現場対応でのディレクターとしては
まだ経験不足だと思える。その気づきにより
私自身が、やるべきことが明確になった。
 
一つは、翔という、才能あるクリエーターに、
花を咲かせるためにできるだけの事をする。
それは演者として、ディレクターとして。

二つ目は、翔に告白させる、ということだ。
“陰キャ”の私でも初日で流石に気づくほどの
私に対する下心があると思っている。

いや私だからか、女子なら誰でもいいのかは
よくわからないが。そう考える理由は一つだ。
本当に遺憾だが、たった3日で、
翔のことが好きになったと自覚している。
 
その日の撮影は、夜の8時まで続いた。
本当に高校生か?と思うほど、
クリエティブに対するこだわりが凄い。

私は、YouTubeに造詣が深いわけではないが、
面白いものができる確信はあった。
 
一方でだがクリエーターとしての振る舞いの、
合間、合間で、男としての下心が見えるのに
それを必死に誤魔化そうとするのが、
見ていて非常に面倒くさかった。

それで気づいたが、元来、翔という生き物は、
草食動物だと確信した。
 
いわゆる陰キャの私からそう見えるのだから、
相当に異性への耐性は低いと思った。
とどのつまるところDT確定フラグが立った。
暫くは使えるな、と思った。

まあ、私も同じだけど。
 
「恋のはじまりって、こんなもの?」 

幼い時に、少女漫画を見て思い描いたものとの
違いにがっかりした気分も、幾分あったが、
これから始まる2人のストーリーへの興味が、
それに勝っていた。
 
そんな私の思いに、今私の目の前に居る翔が、
気づいて誘ったのかは定かではないのだが、
来週末も動画の撮影することが決まった。
そして、連絡のためと、LINEを交換した。
 
家に帰って試してみようと思った事があり、
実行した。LINEで、
「来週の撮影どんな服がいい?」と打った。

どれくらいのスピードで返信があるか、
試してみるためだ。記録は、3秒だった。
「こいつ、絶対何か打とうとして、
ずっとLINEを開いてやがったな!」
と思うと、自然と笑いがこみあげた。
 
“草食動物”くんが、いつ牙をむいてくるのか、
と想像すると、笑いがこらいきれなくなった。
 
(第46話 終わり) 次回9/12(木)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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