見出し画像

小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』9/7(土) 【第45話 結成】

話題は何でもよかった。
昨日、思いがけない、翔との接点が生まれた。
それは、裕奈の中で翔への興味に繋がった。
 
ただ、それは中学3年以来学校生活において、
深い人間関係を避けてきた裕奈にとっては、
何の躊躇いもなく自分のテリトリーに入る、
「翔」というキャラクターに対して、
興味を抱いたというものに過ぎなかった。
 
翔は、どんな人間か、ということが知りたい、
ただその興味で、駅で待ち伏せのようなことを
してまで、翔との接点を持った理由だった。

裕奈の質問に、翔は聞かれたままに答えた。
 翔「一応、チャンネルは持ってる。
ただ、雑学的な動画がのってるくらいだな。

『こういう事をしたい』ってうアイディアは
あるにはあるんだけど、、、
なんせ、この風貌やキャラクターだから、
それをうまく作れる気がまったくしていない」 
 
裕奈の中では、どうして翔が自分のことを、
そう評価しているか全く理解できなかった。
私より余程陽気で、パワーがあると思う。
その感想を、そのまま伝えた。
 
翔「全然、そんなことないよ。
俺が好きなYouTuberは、
タケウチショウスケなんだけど、
その動画見ると対応力と洞察力が凄いなあ、
って思う。ほら、YouTubeって、
場当たり的な企画とか面白いだろ?
そういうのって企画力だけじゃないんだよね」
 
裕奈「え?そう?だって昨日機転を利かして、
私を助けてくれたじゃない?
あの対応力は、凄いと思ったけどなあ」
 
翔「いや、違うんだよ。実は駅前で櫻井さんを
見かけて、話かけようかどうか迷っていたら、
いきなりあんな展開になって。

それで、どうやって間に入るべきか?って、
頭の中でまとまってから、声を掛けたんだ」
 
裕奈「そうだったんだ。でもなんで昨日は
声をかけてくれようと思ってくれたの? 
だって今まで、同じクラスなのに、
学校で話しかけてくれたこと、なかったから」

翔「まあタイミングってやつかなぁ?
なんか、そういうのない?」
裕奈「まあ、あるね」  そう答えてみたが、
どういうことなのかは、よくわかっていない。
 
ただ一つ思ったのは、翔は優しく他の人の事を
気遣える人間なんだろう、ということだった。
翔への興味は更に強くなってきたのもあり、
裕奈は再び、翔に質問した。
 
裕奈「ねえ、谷川くんが、今考えている
企画のアイディアって、どんなの?」

私の質問に、翔は嬉しそうに
企画のアイディアを教えてくれた。
どれも面白そうな企画だった。
私がその感想を翔に伝えると、翔は言った。
 
翔「そう言ってもらえると、素直に嬉しいよ。
演者さえいればやってみるんだけどなあ」

私は、その言葉を聞いて、翔に聞いた。
裕奈「谷川くんの周りの友達に頼んでみれば、
いいんじゃないの?」翔は返した。
 
翔「いや、陰キャ代表みたいな俺の周りには
陰キャしかいないから、たぶん自分でやるのと
大差ないと思うんだよね。

それこそ櫻井さんみたいな"華"があるような、
キャラクターじゃないと」 
 私は、その言葉に驚き、聞き返した。
 
裕奈「私に、“華”があるって、冗談でしょ?
私こそ、“陰キャ”よ。」
すると翔が、凄い勢いで言葉を返した。

翔「いや櫻井さんはビジュアルからして
“華”がある。あと、そのツンデレ感も、
キャラクター際立っているよ。
YouTuber適性あると思うよ、櫻井さん」

裕奈「あ、そういう枠組みとして、
私のことを認識してくれてたんだ。」
この言葉に深い意味はなかった。
本当に思ったまま口にしただけなのだが、
なぜだか、翔が焦って返した。
 
翔「いや、違うって。YouTuber適性は
付け足しみたいなもんで、
本当に櫻井さんの可愛さと、魅力が、
気になってて、、、、」

ここまで言って、翔は「しまった」
という顔をして私の方を見た。
私は翔の顔を見てたので翔と目が合った。
翔は目を逸らして言った。
 
翔「あ、いや、あの、俺みたいな
“陰キャ”代表からしたら、
眩しいって事を言ってるんだよ」

言い直したほうが、余計わけが分からないが、
私に悪い印象がないことはわかり、返した。
 
裕奈「ねえ、谷川くんの考えた企画に、
少しでいいから、私出させてもらっていい?」

私の突然の言葉に、翔の反応が止まる。
私は、あれ、迷惑だった?と思い、
言葉を付け足そうとしたら、翔が声をあげた。
 
翔「是非、お願いします。櫻井さん!
ちょっとと言わずチャンネルのメインで!
あ、いっそチャンネル名も変えようか?
2人の名前とって「ユナショウ」ってどう?」

裕奈「いや、そこまでする?
まあ、私は、別にどっちでもいいけど。
っていうか、谷川くん下の名前「ショウ」
って言うんだ?   はじめて知った」
 
翔「知らんかったんかい!」私は返した。
裕奈「私の下の名前、知ってたんかい!」 

私は笑いで返したつもりだったのだが、
何故か翔の顔が赤くなった。
 
(第45話 終わり) 次回9/10(火)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?