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それぞれの引き出し

何故かここ数日、店をオープンした頃の記憶がフラッシュバックしていた。
多分深層心理に「そろそろ10年だよ。初心を忘れていないかい?」と心の褌を締めなおせと指令を出されているのかもしれない。
変わっていないようで変わっている部分もあるだろうし、それを進化と呼ぶのなら舵取りを間違えずにもっと進化していきたい。
そんな中オープン当初来てくれていたお客様が来てくれた。何故かその人が来てくれた日のことは今でも良く覚えている。その後も店の前を通りかかると会釈だけはしていた。
「時々は買おうかと思ってね」
照れ隠しのようにはにかんだ笑顔で言ってくれた。いつもは寡黙な印象だけど今日はすごく優しいまなざしで気さくに話してくれた。
「ホイップクリームが好きなんだよ」
ちゃんと覚えましたよ。
お客さんそれぞれの好きなものは大抵覚えている。
そしてその人が来たときにさり気なく引き出しを開けてその人好みのものをサーブする。
接客をやっていて一番の醍醐味だ。
そんな引き出しを沢山持っていたい。
そしていつでも「どうぞ」とサーブ出来るようでいたい。

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