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田名綱敬一 〜記憶の冒険〜
パワフルだけどどこか翳りがある。
一言で言うとそう表現できる。
国立新美術館で開催されていた「田名綱敬一 〜記憶の冒険〜」を観てきた。
1936年生まれ、武蔵美卒業後アートディレクター、グラフィックデザイナー、映像作家など様々なジャンルを横断した創作活動を精力的に行ってきた人である。
作品の特徴としては自身の過去の記憶や夢を主題とした作品を数多く制作してきたところ。
幼少期に体験してきた戦争体験や生死を彷徨った大病の経験を大きなきっかけとし「人間は自らの記憶を無意識のうちに作り変えながら生きている」と言う説に基づいて自身の脳内で増幅される「記憶」を主題に制作活動を続けてきた。
観ていて「草間彌生」氏の水玉を思い出した。確かこの作品も作者の幼少時の「総合失調症」の幻覚とそれに対する戦いの手段として水玉を描いてきた。
田名綱敬一氏も幼少期に観た映画の中の太鼓橋とその下にあった女の晒し首の映像が脳裏から離れなかった。のちに戦時下で見た女性の遺体、幼少期の遊び場だった目黒雅叙園の館内に飾られていた桜の木の下に集う和服姿の女性たちの絵や、芸妓たちが集う横長の絵の中央に描かれている真っ赤な太鼓橋が幼い記憶に鮮明に残り作品に大きな影響を与えた。橋の持つ生と死の境界線、もしくは出会いの場として橋として興味を惹かれたのかもしれない。
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このような作品のみならずデザイナーとして雑誌の表紙や挿絵も多く手がけている。
その手法は主にコラージュでポップでありスタイリッシュであり前衛的である。
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また数々のクライアントワークやアーティストとのコラボレーションも行ってきた。
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その独創的な感性と色彩感覚、ダークネスさに圧倒され刺激を受けるが、ただ色彩に溢れているだけでなく不思議とバランス良く配置されているところは興味深いところである。
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ともすると奇抜すぎる作品もよくよく見るとその造形の緻密さとまとまりの良さを感じる。
ちょっとエネルギーが必要な展覧会であったがこれも一つの芸術と引き出しの中にしまっておこうと思う。