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真っ白い心

真っ青な青空。
窓を開けてキンッと冷えた空気に一気に目が覚める。
窓の外に広がる早朝のゲレンデはまるでサテンをなめしたように朝日を浴びて
キラキラ輝いている。
足跡ひとつないまっさらな雪を見ていると心が穏やかになる。

ゲレンデに面した可愛いホテル。
夕食に間に合うように早めに現地へ向かおうと待ち合わせた。
余裕で向かったつもりが連休前の高速はやはり渋滞を繰り返し最寄りのインターに着いた頃にはとっくに日が暮れていた。
おまけに途中から酷い吹雪に見舞われれ視界の悪い。
なるべく人が来ないところに行こうという彼の希望で宿までの道のりはちょっと険しい道を通らなければいけなかった。
見通しが悪い峠道
山奥のためカーナビも正確には機能しないのか何度か道を間違えた。

やっとのことで宿に着いたのが23時を回っていた。
楽しみにしていた夕食は到着がこれほど遅くなったため残念ながら食べることはできなかったがあまりの疲労にお腹もあまり空かなかったのが唯一の救いだった。

運転で疲れたであろう彼に先にシャワーに使ってもらい彼が出た後に私が使った。
熱いシャワーに疲れが少し和らぐ。たっぷりの湯で髪を丁寧に洗う。ボディソープを念入りに泡立てて左手から順に念入りに洗い流す。

バスフレグランスも何もつけず生まれたてのようにさっぱりした体にバスタオルを巻きつけてバスルームを出た。

可愛らしいカントリー調の部屋にはシングルベッドが二つ。
その片方のベッドで彼が寝息を立てて眠っている。

「えっ?」

とは思ったが相当疲れているのだろう。
起こすことはできなかった。
それでも付き合って三ヶ月。初めての二人だけの旅行。その最初の夜。
仕方ないとは思いつつ一抹の寂しさが胸を刺す。
「仕方ないよ」と自分を無理に納得させもう一方の空いているベッドに滑り込んだ。

私が一人部屋からゲレンデを眺めていると彼が起きてきた。
ちょっと気まずそうに私の顔をまともに見れないと言った感じで

「昨日はごめん」

と謝ってきた。

「ううん、全然!それより疲れていたでしょう?運転ありがとう。昨日は疲れていたからお礼もまともに言ってなかったね。私こそごめんね」

そう謝り合ったがどこかギクシャクしている。
それはゲレンデに出てからも同じだった。

人がなるべく少ないところを選んだおかげでゲレンデはさほど混み合っていない。しかしそれだけ規模が小さいので中距離のリフトが一基設置されているだけのゲレンデ。
連休なのにこれだけ人が少ないのは首都圏向けにあまり積極的に宣伝していないのもありそうだ。
彼がここを知っていたのは高校の時のスキー教室で来たことがあったからだ。
人があまりいないスキー場。
彼女ができたら絶対一緒に来たかったんだと彼が力説していたのが思い出される。

何本か目の滑走を楽しみ二人で乗った時だった。
旧型のリフトのため二人の感覚が狭い。
二人でスキーを滑っている間に少しづつわだかまりのようなものも溶け始めていたが
氷解に向けてお互いにキッカケが掴めなかった。

天気は朝から快晴だったが折からの寒気の襲来で気温はいつもより低いとのことだった。

リフトが滑り出し真っ白い雪の上を青空に運ぶように二人を乗せて登ってゆく。
ポンポンと彼が肩を軽く叩いて合図する。
見ると彼がスノーグローブの人差し指を立てて私に「見て」とジェスチャーをする。

見ると彼の指先に

「綺麗な、それは綺麗な雪の結晶がひとつ」

陽の光に輝いていた。

それはまるでダイヤモンドのように、嫌それ以上に私には輝いて見えた。

温かい涙が溢れた。ゴーグルに隠れて彼には見えないだろうか。私は彼に抱きつく。
雪の結晶を壊さないようにそっと抱きつく。

こんなに繊細な人。
思えばいつでも私を気遣ってくれる。
途中の峠道も乗り物に弱い私の気分が悪くならないように注意してゆっくり走ってくれた。
時折後続車が現れると先に譲って常に私を見ていてくれた。
まだ付き合って三ヶ月。
彼の知らないところがたくさんあるのは当たり前のことだ。
彼も私の知らないところがたくさんあるだろう。

私は素直でいようと思う。

嘘のない私を知ってもらいたいし彼のこともまだまだ知りたいと思う。
昨晩だって二人の時間の中のほんの一部だ。
そう思えばいちいちこだわっていた自分が恥ずかしくなる。

ゴーグルを外し彼の目を見る。
彼もゴーグルを外し私の目を見た。

お互いの目の中にもうわだかまりは消え去りお互いを思いやり温かい光が宿っている。

これからも二人、真っ白い心でずっとずっといようね。

千本ノック  19/1000

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