慣習国際法の成立要件と妥当根拠
わたしは、国際法は国家平等の原則に基づくと考えており、その立場から、国際法の成立形式の一つである慣習国際法を説明しなければならない。国家平等の原則は、法の下の平等を要請し、国際法の適用における一貫性を求める。現在、実定国際法において認められている慣習国際法の成立要件は、国際法の妥当根拠から説明されなければならない。
慣習国際法の妥当根拠は、つねに国際社会の公益を求める諸国の「一般意志」という理念にある。諸国の「一般意志」は、自他ともに受容可能な「公共的理由」に基づき、平等に適用されることが要請される。その背景には、前述のとおり、国家平等の原則がある。
では、慣習国際法の妥当根拠である「諸国の一般意志」と成立要件である「法的信念」と「一般慣行」はどのような関係にあるか。「諸国の一般意志」を、実定法化するのが、成立要件である。
まず、「諸国の一般意志」に適合する「法的信念」は、規範性を帯び、一般化可能であるだろう。
法規範による規律の本質は、その意味上平等に向けられ、一般化されうべきことを要求し、それ自体において一般的性格を帯びることの中にある。例外規定もまた、その意味上平等に向けられ、例外として一般化されうべきことを要求され、やはり一般的性格を帯びる。
この点で、各国の「法的信念」は、自己の立場が一般国際法として、一般化されうべきことを信念としていることには疑いがない。「諸国の一般意志」に適合する「法的信念」は、国際社会の公益を志向するため、このような一般適用性を主張し、そこに自国の利益も、見いだしているのである。
すなわち、法的信念は、法的義務実践の意識ではない。それは、田畑茂二郎によれば、一定の慣行を法的に拘束的なものと認めるのが正しいとする信念である。
次に、「一般慣行」の要件は、諸国の「法的信念」が到達した一致点の証拠確定の手段であり、慣習国際法の法規範の「実定性」を担う。規範的理由としては、「一般慣行」の要件が可能にする規範の「実定性」は、慣習国際法の「法的安定性」を確保し、国際社会に安定と予測可能性をもたらす上で、重要性を帯びる。
田畑茂二郎によれば、一定の慣行が成立したといわれるためには、少なくとも、諸国の一定の行態の繰り返しに基づき、特定の事項について、多数の国家が当然一定の行態をとるだろうという、一般的な期待が成立することが必要である。
国家の実践の中に、法的信念が形成され、多数の国家の行態の中に確認された場合、慣習国際法の存在が認められよう。その法規範の内容は、諸国の「法的信念」と、それが到達した一致点の証拠確定の手段としての「一般慣行」とともに、「諸国の一般意志」という観点の下で、その公益性を解釈しなければならないと考える。
<参考文献>田畑茂二郎『国際法新講・上』/田畑茂二郎『国際法・1』/山本草二『国際法新版』/ラートブルフ、田中耕太郎訳『法哲学』