国際人権法の国際実施
1・国連実施メカニズム
(1)女性の地位委員会
女性の地位委員会は、ジェンダー平等と女性に対するエンパワーメントを促進することを目的とする政府間機関であり、女性の権利を促進するため、経済社会理事会に報告・勧告を行い、女性の権利に関する緊急の問題を勧告する。
*「経済社会理事会」:国連の主要機関の一つ。人権および基本的自由の尊重および遵守を助長するために勧告し、総会に提出する条約案を作成し、人権に関する委員会を設けるなどが認められている。
(2)人権高等弁務官事務所
人権高等弁務官は、事務総長の指揮と権威のもとで国連の人権活動に主な責任を持つポストである。任務遂行にあたり、憲章、世界人権宣言、その他の国際人権文書と国際法の枠組みに従って活動しなければならない。
憲章や国際人権文書に定めるすべての人権を、すべての人が効果的に享受できるよう人権を促進し保護すること、権限のある国連の人権諸機関が与える任務を遂行し勧告すること、人権尊重を確保するため政府と対話すること、国の要請に応じて人権に関する助言サービスや技術的・財政的援助を行うこと、発展の権利の実現を促進すること、効率や実効性を改善するために調整役となること、などがその基本的な任務である。
とりわけ、ウィーン宣言の下、文化の独自性に考慮しつつも、人民間の多元主義に制限を与えるものとして、人権の普遍性を承認し、さらに、すべての人権の相互依存性という観点からも、行動していかなければならないだろう。
(3)人権理事会
人権理事会は、「人権委員会」の権限、任務等の移管を受けて、総会の補助機関として設立された。
*「人権委員会」:国際人権基準の設定と実施、国別手続とテーマ別手続からなる特別手続による人権状況の調査・検討と報告、個人・団体からの通報の処理などを担った。2006年に任務を終えた。
人権理事会は、すべての人のためにすべての人権と基本的自由の保護の普遍的な尊重を促進することに責任を負い、重大かつ制度的な侵害を含む人権侵害の事態に対処し勧告すること、国連システムの中での実効的調整と、人権の主流化を促進することが要請された。
また、理事会の作業は、普遍性・公平性・客観性および非選別性の原則によって導かれ、建設的国際対話と協力を通じて行われることとされている。
(ⅰ)「普遍的定期審査」
人権理事会の「普遍的定期審査」は、すべての国連加盟国を平等に審査対象とし、客観的かつ信頼できる情報に基づき、加盟国の義務および約束の履行状況を審査するものである。
(ⅱ)「特別手続」
人権理事会によれば、「特別手続」とは、テーマ別または国別の視点から人権に関して報告と勧告を行う委任を受けた独立の人権専門家のことである。人権理事会により任命され、個人資格で行動するとされている。
(ⅲ)「不服審査手続」
人権理事会は、制度構築決議で、重大で信頼できる証拠のある人権侵害の一貫した形態に対処する非公開の「不服審査手続」を設置している。
2・条約実施メカニズム
(1)「国家報告制度」
国連の主要な人権条約は、締約国に、条約加入後の一定期間に、条約上の義務の履行状況を条約の実施機関に報告する手続を採用している。国家報告制度と呼ばれる。
審査における委員会の役割は、締約国による条約違反の認定や責任の追及ではなく、人権状況の漸進的な改善を目的とした「意見交換=対話」であるとされる。
非政府団体(NGO)は、国家報告書に対抗する形で、民間の視点から報告書(カウンター・レポートと呼ばれる)を作成し、国家報告が形式的審査で終わらないようにしている。
国家報告制度における「建設的な対話」は、こうした異なるアクター(条約機関・国家・NGO)によって支えられている。
(2)「個人通報制度」
個人通報制度とは、人権の享有主体が人権侵害を受けたときに、国内的救済を尽くしてもなお救済されない場合に、個人の訴えに基づき不服を審査する国際的な救済手続である。
個人の通報が受理されるには、委員会の管轄権が認められること、国内的救済措置の完了などの、受理許容性の要件を満たしていなければならない。
受理可能と判断された通報は、本案の審査が行われる。違反を認定した場合には、通常、被害者に対する救済と再発の防止を求める勧告を付した「見解」(views)を採択する。
なお、委員会の見解が締約国により遵守されているかどうかを監視する個人通報のフォローアップ手続が作られ、締約国の対応状況を評価、公表している。
<参考文献>芹田健太郎・薬師寺公夫・坂元茂樹『ブリッジブック国際人権法第2版』