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刑法の役割と基本的人権の尊重

刑法は、法益保護と人権保障を役割とする法律である。前者は、一般予防と特別予防に区分される。一般予防は、一定の犯罪行為を行えばそれに対して刑罰が科されることを事前に予告することによって、そのような犯罪行為が行われることを防止する。特別予防は、犯罪行為が現実に行なわれてしまった場合には、その犯罪者に対して刑罰を科すことによって、二度とそのような犯罪を行わないように抑止することである。

また、刑法は、国家権力による恣意的な刑罰権の行使を制約し、国民の人権を保障する役割を有する。犯罪として処罰すべき行為をあらかじめ明確に法律に規定し、犯罪として処罰される行為と、処罰されない行為を明確に区別することによって、国民の行動の自由を保障する。(罪刑法定主義)。刑法は、刑法に定められた種類以外の刑罰を科したり、刑法が可能なものとしている範囲を超えた刑罰を科すことがないという点で、犯罪者の人権も保障している。

すなわち、刑法の基礎には、憲法の規定する基本的人権の尊重がある。したがって、刑罰法規の内容も、人権を害する可能性をもつものであってはならず、人びとの権利と自由を積極的に保護するものでなければならない。これを、罪刑法定主義の実質化としての刑罰法規適正の原則または適正処罰の原則という。

犯罪の抑止という視点は、人間の尊厳における平等に則り、犯罪者の人権を軽視することなく、特に特別予防を犯罪の抑止とともに、犯罪者の更生という視点でも捉えなおすことが必要である。なお、倫理や道徳は、本来的に個人の内心における価値観の問題であり、法によって強制すべきものではない。刑法は、多様な価値観をもった人びとが平和に共存していくうえで、どうしても侵害されては困る重要な法益に限定して保護する役割を果たすべきである(刑法の謙抑性)。

<参考文献>町野朔・丸山雅夫・山本輝之編『ブリッジブック刑法の基礎知識』

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