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国際人権法の国内実施

1・条約の国内的効力

人権条約は、国内で実施されることによって、その意義を持つ。そのためには、まず条約が国内的効力を持たなければならない。条約が国内でどのような効力を持つかは、各国の憲法が定めることである。条約が国内的効力を持つために国内法への変形が必要であるという「変形方式」をとる国と、条約を国内法に一般的に受け入れその国内的効力を認める「一般的受容方式」の国がある。日本は後者であり、条約は批准・公布されればすべて国内的効力を持つ。

(1)「変形方式」

たとえば、「変形方式」を採る英国では、たとえ条約が正規に批准され、国際法上英国を拘束するようになっても、変形方式による議会の同意がない限り、裁判所は、国内法上不存在として扱い、これを具体的な事案に適用・執行しない。

(2)「一般的受容方式」

現在、多くの国の憲法は、条約の国内的編入について、「一般的受容方式」を採っている。米国では、建国以来、国際法は連邦議会による法律の制定または大統領による宣言を要することなく、米国法に編入されたものと見なされ、とくに「自己執行力のある条約」は、米国について発行すると同時に米国法の一部となった。

*「自己執行力のある(self-executing)条約」:新たな立法や行政措置を待たずにただちに裁判所で適用可能な条約を指す。

ただし、米国では、条約が「自己執行力」を持つか、それとも法律の制定その他の適当な執行・行政上の措置による具体化を待つべきものかどうかは、米国の意思で決定するとされている。

2・条約の国内的効力順位

条約にどのような国内的効力順位を与えるかについても、各国の憲法が定める。日本では、憲法98条1項が憲法の最高法規性と憲法違反の法令等の無効を定めるとともに、第2項で「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定している。「確立された国際法規」とは慣習国際法を指す。

日本では、砂川事件判決などの判例法上、条約に対する憲法の優位は確立しており、憲法、条約、法律、命令、規則といった位階制が成立しているとされる。しかし、裁判所における考慮順位は、法律、憲法、条約となっており、人権条約の解釈を裁判所が正面から扱う事例は少ないという。

3・条約の国内的適用

国内的効力は、条約が条約という法形式で国内法として通用するかという問題であるのに対し、国内的適用は、裁判においてその条約を適用できるかという問題である。

条約の国内的効力は、国内適用可能性の前提と考えるべきである。国内的効力を持つすべての国際法が直接適用されるわけではない。しかし、国内で直接適用しうる国際法は、国内的効力を持たなければならない。直接適用は、国際法が国内で発揮しうる効果の一つである。

(1)条約の直接適用可能性の基準

国内における条約の直接適用可能性の主観的基準として、(ⅰ)「当事国の意思」は、排除基準として意味を持つ。すなわち、国が条約中で直接適用可能性を否定する意思を示したなら、その意思は尊重されると考えられる。

さらに、客観的基準として、(ⅱ)条約の内容が十分に明確で、それ以上の特別の措置をとらなくても国内的に執行可能であること、および(ⅲ)当該条約規定を適用することについて、憲法などの法令上の障害がないことも要件とされる。

(2)人権条約の「間接適用」

国内裁判所による人権条約の間接適用とは、特定の事案に直接に適用される法令の解釈に際し、人権条約の規定や精神を解釈の指針として用いるとか、解釈の補強のために用いる方法とされる。

たとえば、札幌地裁は、小樽入浴拒否事件判決で、人権条約が「私法の諸規定の解釈にあたっての基準の一つとなりうる」と判示している。

憲法98条の下では、憲法優位の立場から、条約の憲法適合性だけでなく、人権条約の趣旨を国内で具体的に実現していくことが求められている。そのためには、人権条約の「直接適用」および「間接適用」が活用されていくことが望まれるだろう。とりわけ、条約の効力順位が、憲法、条約、法律となっていることから、「間接適用」における法律の人権条約適合的解釈に対し、可能性が開かれうる。

<参考文献>芹田健太郎・薬師寺公夫・坂元茂樹『ブリッジブック国際人権法第2版』/山本草二『国際法新版』/岩沢雄司『国際法』

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