人権享有の前提としての「自決権」
人権規約は、A規約、B規約のいずれにおいても、第一条一項において、自決権について規定し、「すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する」としている。
第二次世界大戦後、非植民地化の過程で実定法となっていく自決権は、植民地人民を中心とする、外国支配下におかれた従属人民の独立達成の権利であり、「外的自決権」を意味した。独立国の一部を構成する国内の少数者などに自決権を認めることは、国の領土保全を損なうものとして厳しく拒否されていた。
しかし、世界人権宣言ではふれていないが、人権規約で新しく規定されたものとして、B規約の第二七条において、少数民族(マイノリティーズ)の問題が取り上げられており、「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない」と規定されている。
「外的自決権」は、このような少数民族の権利の尊重を伴わなければならない。さらに、1993年のウィーン世界人権会議では、「国家的および地域的独自性の意義、並びに多様な歴史的および宗教的背景を考慮にいれなければならないが、すべての人権および基本的自由を助長し保護することは、政治的、経済的および文化的な体制のいかんを問わず、国家の義務である」ことが確認されている。
人権と自決権は、自決権を人権享有のための前提条件という側面でのみ捉えることでは十分でない。植民地から解放され、国家として独立したにもかかわらず、新たな独裁政治が行われ、人びとの人権や基本的自由が抑圧されるという事態は、まれではない。自決権が、人権享有のための前提条件として要求されるならば、自決権の行使は、人権の尊重を伴わなければならないだろう。
国際法上実定法化されてきた「外的自決権」は、領域国家の国民を人民と見なし、その対外的な自由と独立、対内的な人権と民主主義的権利をもって構成される、人民主権論の系譜に属する。なお、この人民主権論に従って、独立国の一部を構成する人民は、内的自決権、すなわち、政府によって自分たちも代表される権利を有しており、外的自決権と内的自決権の両立が、人民主権論の論理的帰結である。
私見ではあるが、国際法上の実定法は「外的自決権」であり、「内的自決権」は、人民主権論の内容、その規範的要請の一部を構成するものとして、道徳規範上、尊重されることを要する。しかし、実定国際法上はあくまで、「外的自決権」のみを法的拘束力を有するものとして、定義することになるだろう。
<参考文献>田畑茂二郎『国際化時代の人権問題』/芹田健太郎・薬師寺公夫・坂元茂樹『ブリッジブック国際人権法第2版』/松井芳郎『国際法から世界を見る第3版』
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