憲法の人権条約適合的解釈
人権条約と整合的な憲法解釈は、条約誠実遵守義務を定める憲法98条2項によって求められている。これに関して、人権条約の規定が日本国憲法よりも保障する人権の範囲が広いとか、保障の仕方がより具体的で詳しい場合、憲法を条約に適合するように解釈していくことが必要とされる、という立場がある。
たとえば、憲法の一般的規定を、同じ憲法の個別の人権規定と結びつけて解釈することにより、日本国憲法には明文規定がないが、人権条約には明示の規定がある人権の保障を導くような、「融合的」な憲法解釈が求められる場合が考えられる。このような憲法解釈によって、人権条約の趣旨を日本国内で尊重できる事例もあるだろう。
具体的には、自由権規約7条は、憲法36条の禁止する「拷問」や「残虐な刑罰」に加えて、「非人道的な取扱い」や「品位を傷つける取扱い」の禁止を定めている。東京高裁は、「拷問を禁止した憲法36条及びすべての国民が個人として尊重されることを保障した憲法13条」が、自由権規約7条と同様の内容を保障していることを指摘したという。
さらに、憲法の一般的規定に、具体的な基準が明示されていない場合、憲法の解釈基準の具体化として、人権条約を指針とすることが有用な場合がある。
たとえば、日本国憲法14条は、性別による差別禁止を定めているが、具体的な基準は明示されていない。女性差別撤廃条約9条2項が、「締約国は、子の国籍に関し、女性に対して男性と平等の権利を与える」と定める。日本は、同条約の批准に際し、父系血統主義から父母両系主義の国籍法に改正している。
ただし、人権条約に整合的な憲法解釈の限界として、憲法アイデンティティの問題を考慮しなければならない。それは、憲法の基本構造に存在する固有の国家アイデンティティである。たとえば、自由権規約が「強制労働」に含まれないと定める徴兵義務が、日本では憲法18条の「苦役からの自由」に反するとして、憲法違反と解する日本の平和主義があげられるだろう。
国家アイデンティティの事例は、自由権規約5条2項の「高水準の国内法令の優先適用」の場合と考えるべき、正当化の内実が求められよう。
憲法を人権条約適合的解釈しようとする立場がある一方で、憲法優位の立場から、人権カタログの同一性を強調し、憲法を超えた人権保障に否定的な立場がある。後者の立場は、日本国を拘束する国際人権法を、憲法の人権カタログと同一視するものであり、国際法の誠実遵守を規定する憲法に違反するものであろう。
憲法優位の立場に立ち、日本国を拘束する国際人権法を誠実に遵守するため、憲法の人権条約適合的解釈、人権条約の直接適用・間接適用などを用い、憲法と国際人権法との適合性を確保し、人権条約の趣旨を日本国内で尊重できるようにすべきだろう。
<参考文献>近藤敦『国際人権法と憲法』/芹田健太郎・薬師寺公夫・坂元茂樹『ブリッジブック国際人権法第2版』