困った人

おれのご主人様は優しい。
でも、とびきり寂しがり屋だし、傷付きやすい。
おれの前では涙を見せるのが
ちょっと不謹慎だけど、特別な気がして嬉しい。

普段はかっこいいご主人様の
弱い場所を知ってるのってなんか嬉しい。

「ふぁあ……」

吸っていたタバコを灰皿で揉み消して大きな欠伸をするのを見ながら、膝でぬくぬくとしてると、
不意に膝から下ろされた。

敷いてあった布団に入ると
『おいで』と手招きされたので早足で傍に走ると布団を上げて「今日は寝ようなァ」と眠そうな声で言われたので頷いて布団にお邪魔する事にした。

布団に入ってからも
『ひひ、壱永は暖かいなぁ』とか、今日は何処に行ってたのかとか、のんびり会話をして。
抱き枕にされたまま、
暖かいなって思いながら静かになったのを確認してからウトウトしだした所……
帰って来たなって思って、安心たら余計眠くなって、そのまま、
そのまま夢に落ちそう。

明日は何しよう、うーん、明日考えよう、
眠いや。

これで終わろうとしたのに
寝てると思って居た飼い主にぎゅう、と強く抱き寄せらせた。
『ええっ!?』
思わず変な声が出たけど、
素知らぬ様子で、元々低い声が、更に低く甘い声になって、耳元で

『ずっと隣に居るよ、壱永』
って真剣な声で囁かれたから、飛び跳ねそうになるけど、離してくれなかった。
えっ?何かしちゃったかな、何かあったのかな混乱しながらもじたばたして居ると
愉しそうな押し殺した低い笑い声がして、

『ひひっ、油断してたなァ?おやすみぃ……』

イタズラ成功!みたいに笑いながら、あっという間に眠りに落ちて行くのがわかるけど、
おれはすっかり目が覚めた。

当たり前ですけど、目が覚めた(2回目)

今度は本当に寝てるの!?ってくらい抱き寄せらせた腕は離してくれそうもない。
でも、聞こえる寝息は本当らしい。

明日は、何しようかな……
停止してた思考を手繰り寄せて考え始める。
どうせ寝れる気もしなかったから。

たまに子供みたいにイタズラしてくるのも
飼い猫特権だと思うと怒れないもので。
仕方ない、困った人だなぁって思いながらも、すっかり家出した睡魔が帰ってくるのを待つ事にした。

帰ってくるかな?

【お題から失礼しました】

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