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日経平均株価とテレビアニメタイトル数の比較 ~景気とアニメ制作本数は連動しているのか?~

2024年2月22日、日経平均株価が史上最高値の3万8915円を更新し、更に一ヶ月後には4万円台に乗せました。
アニメ業界も絶好調です。東映アニメーションの株価は10年前から、なんと10倍にもなっています。
アニメ産業全体の市場も、10年で2倍の約3兆円規模まで成長しました。

景気とアニメの制作本数は連動しているのでしょうか?

少し気になりましたので、日経平均株価とテレビアニメタイトル数について比較のグラフを作成してみました。

景気とアニメ
※出典データ:アニメ産業レポート2023 「テレビアニメタイトル数」を元に作成

スタートは、テレビアニメのタイトル数の統計が取れる1963年からです。

■1963年

日経平均株価:1225円
テレビアニメタイトル数:7作品

現在は年間300タイトル以上制作されておりますが、1963年の段階では、たった7作品でした。
日経平均株価も1225円。
隔世の感がありますね。

なお予めお伝えしておくと、日経平均株価については、連続性が保たれておりません。
「日経平均株価は、2000年4月の銘柄入れ替えによって大きく歪んでおり、その前後で指標としての連続性が大きく損なわれている」とのこと。

とはいえ、一つのものさしであることは間違いないところです。

さて、それでは株価とタイトル数の話題に戻ります。

1982年ぐらいまでは株価と連動していますね。

景気とアニメ

■1982年

日経平均株価:8017円
テレビアニメタイトル数:74作品

翌年以降は、株価がとてつもなく上がり始めます。
バブル時代の幕開けです。

しかし、アニメのタイトル数は比例して増えている訳ではありません。

1989年のバブルの絶頂期でも、微増といった具合です。


景気とアニメ

■1989年

日経平均株価:38916円
テレビアニメタイトル数:77作品

株価とタイトル数がまったく連動しておりません。

当時、アニメはオタクのものとして、世間では理解されていたので、おそらく日陰の産業だったのでしょう。
1988年から1989年にかけては、宮崎勤事件も起こりました。
オタクコンテンツ系に暗い影を落としています……。

転機は1998年に訪れました。

景気とアニメ

■1998年

日経平均株価:13842円
テレビアニメタイトル数:132作品

この年に、タイトル数が急増します。
前年の86タイトルから、132と大幅に伸ばしています。

背景には、深夜アニメビジネスの勃興がありました。
深夜アニメの放送→ビデオグラムの回収というスキームは、一気にアニメ市場全体を異なるレイヤーに引き上げたとも言えます。

1998年のテレビアニメは、そうそうたるタイトルが並びます。

『カードキャプターさくら』
『遊☆戯☆王』
『COWBOY BEBOP(カウボーイビバップ)』
『ガサラキ』
『TRIGUN(トライガン)』
……等々。

また劇場映画では、最近もリバイバル上映された『PERFECT BLUE』もあります。

GONZO制作のOVA『青の6号』は、手描きとCGの融合などを試み、話題を呼びました。

なお1997年には『ポケットモンスター』が始まっています。劇場アニメでは『もののけ姫』が記録を作りました。

更に遡ると1995年には『新世紀エヴァンゲリオン』が初放送。1997年の再放送でブームになっています。

深夜アニメとビデオグラム。

この鉄板の組み合わせは、様々な作品を創出しながら、2006年にピークを迎えます。

景気とアニメ

■2006年

日経平均株価:17226円
テレビアニメタイトル数:279作品

株価も高いです。

当時、僕は既にアニメ業界で働いていたので、その頃の高揚感は今でも憶えています。
前年にはライブドアによるフジテレビへの敵対的買収もありました。世の中が確実に変わり始めている……!
アニメも、もはや日陰のオタクコンテンツではなくなりました。

その帰結が2006年だったのでしょう。

しかし、崩壊は突然やってきます。
深夜アニメを牽引していたビデオグラムの市場が、クラッシュしてしまったのです。

原因は以下のように考えています。

  • 作品数急増により、クオリティの低下

  • 顧客の購買キャパを超えた商材(ビデオグラム)数

  • 金融の信用不安。2006年にライブドアショック。2008年にリーマンショック

とはいえ、アニメは通常3~5年程度先取りして制作されています。景気が悪くなっても急に減産はできません。

結果、アニメタイトルのボトムは2010年になりました。

景気とアニメ

■2010年

日経平均株価:10229円
テレビアニメタイトル数:200作品

2006年のピーク時から、279→200作品とかなり数を減らしてしまいました。
とはいえ比較すると、株価の方が低迷しています。この時期の数年は、2006年のピーク時から株価は半減しました。
アニメのタイトル数は株価に比べると持ち堪えている方でしょう。

エンタメ産業はもちろん大きな景気の波に左右されるところはありますが、「不景気に強い」と言われることもあります。

粘り腰が発揮されたのが、2010年だったのかもしれません。

しかし、不景気であることは確かです。
2011年には、東日本大震災もありました。

けれども、夜明け前が一番暗いとも言われます。
大底であれば、あとは上がるだけです。

復活の狼煙は、あまり時を経ずに訪れます。

景気とアニメ

■2013年

日経平均株価:16291円
テレビアニメタイトル数:271作品

2013年にアベノミクスが発表され、日経平均株価が急激に上がります。

株価と共にアニメタイトルも活況を取り戻します。

テレビアニメタイトル数も前年222作品→271作品と急増しました。
キッズファミリー向け含め、前年度からの継続作品や落ち込んでいた新作の深夜アニメも復調。
『進撃の巨人』や『ラブライブ!』『Free!』など、ひと時代を築くメガヒットアニメが始まったのも2013年でした。

ここから2018年までアニメ産業の好景気は続きます。
2016年には、テレビアニメタイトル数は史上最高の361本まで達しました。

力強い成長を達成した背景には3点あります。

①ソーシャルゲーム/アプリ事業者の出現

当初はアニメの版権を借りて、自社のゲームやデジタルコンテンツを展開するのみでしたが、自らアニメ制作/製作に乗り出す事業者も出てきました。
豊富なキャッシュを元に、アニメ市場に大きな刺激を与えました。

②中国市場の確立

その昔、中国は海賊版天国とも言われた国でしたが、コンテンツビジネス含めた知財ビジネスが展開されるようになります。それに伴い、権利周りもかなり整備され、海賊版は徐々に駆逐されていきました。
海賊版を野放しにするよりも、きちんと権利ビジネスをおこなった方が「儲かる」ことに気付いたのでしょうね。
人口14億人の市場が隣国に出現したのです。

③Netflixなどのグローバルプラットフォーマーの誕生

現在、日本のアニメ市場を牽引しているのは海外です。およそ50%が海外で売上を立てています。
旧来型のライセンシーに加え、Netflixやアマゾンブライムなど、グローバル展開するプラットフォーマーのおかげで、容易に日本のアニメをデリバリーできるインフラが整いました。グローバルスタンダードではなく、グローバルニッチである日本のアニメが世界中の点在するファンへ届けられるようになったのです。
底堅い需要があり、高額のライセンスフィーも支払われるようになりました。

そして2017年は352本。2018年は350本のテレビアニメ作品が制作されました。
おそらくは、この辺りが日本のアニメ制作の上限キャパシティなのでしょう。
非常に需給がタイトになってきました。

制作本数が多すぎて、制作現場が悲鳴を上げているという声もちらほら聞こえます。

そしてもう一段高みへ……と思いきや、全世界的なパンデミックが発生します。

コロナ禍です。

2019年は、制作本数が急落しました。

景気とアニメ

■2019年

日経平均株価:23657円
テレビアニメタイトル数:306作品

日経平均株価が、一時的にはかなり下がっても、持ち堪えた一方で、テレビアニメタイトル数は、前年350→306作品と急落しました。

制作遅延→放送延期が相次いだのです。

ただし、完全に制作が中止になったタイトルは、表に出ている情報の限りは皆無でした。
世の中的にもアニメの制作現場も、だんだんと新しい生活様式に慣れていきます。

2021年には、アニメタイトル数は333本まで復活。

そして現在に至ります。

日経平均はバブル超え。
テレビアニメも最高値である361本までは復活しませんが、好調であることは確かです。2022年は、317作品でした。

ただ、動画配信の勢いが増しているので、テレビアニメとしては今後最高値を超えるのは難しいかもしれません。
とはいえ、現在日本のアニメのメディアフォーマットはテレビ+動画配信です。少なくとも2010年代は、このフォーマットで展開されるようにも思います。

まだまだテレビアニメに期待していきたいです。

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