「転生者たちの就活事情~君、異世界生活で学んだことは?~」第1話

【あらすじ】
「私は異世界をハズレスキルで成り上がり、発想の転換の大切さを学びました」
「異世界でスローライフを経験し、物作りや商売へのやりがいを感じました」
「婚約破棄後に貴族社会を生き抜いたコミュニケーション能力は、必ず御社で活かすことができます」……。

今の日本では、若者が異世界に行って帰ってくることは珍しくない。
そのため特に就職においては、異世界で何をしたがが重要視されていた!

聖女、冒険者、勇者、悪役令嬢……。
聞き飽きたテンプレを引っ提げて面接に臨む若者たちを、主人公面接官「わたし」がぶった斬る!

【第1話】
 わたしは日本の大手ゲームメーカー、株式会社スタートイの採用面接官。現在絶賛面接中であり、若者たちの緊張感の満ちる面接室で一人だけ微笑みを浮かべていた。

 基本的に、圧迫面接はわたしの趣味ではない。できるだけ穏やかな口調で話しかけ、就活生の本心を引き出したい。

 だがさすがに三次面接ともなると、一筋縄ではいかない就活生が続々と現れるため、ただニコニコと質問しているだけでは何も分からない。

 彼ら──異世界トリップ者は、日本では信じられないようなファンタジーやバトル、スローライフなんかを経験しているのだが、裏が取れないことをいいことに、エピソードを偽り放題盛り放題なのだ。

 勇者は本当に姫を助けたのか
 転生先は本当に悪役令嬢だったのか
 スキルは本当にハズレだったのか

 わたしは疑ってかかる。面接官は、それを「わぁ、すごいですね」と素直に信じる訳にはいかない。嗅覚を研ぎ澄ませ、眼を光らせ、見極める。そして、時には若者たちに教えてやるのが大人としての役割だ。

「次の方、自己紹介をお願いします」

①桜木結衣奈(27)

「私は、聖女として異世界に召喚され、人々に癒しを与えました」

 可愛らしい見た目に反してハキハキと話す彼女は、ナチュラルメイクをしているにも関わらず、突き抜けた華やかさがある印象だった。全くもってそんなことはないのだが、もしスタートイが外見採用であれば、彼女を一番に採用するに違いないといったルックスだった。

「桜木さん。癒し、とは具体的には?」

「はい。私は、聖域で和カフェを経営し、人々に料理を振る舞いました」

「料理? 何故ですか?」

「聖女といっても、私の他に三人召喚されていて、最も魔力量が少ない自分にできることを模索した結果です。身分や種族の垣根を越えた、誰もが集えるあたたかい居場所を作ることができました」

「ほう。身分や種族を越えた……とは、どのような方々ですか?」

「はい。平民や貴族、亜人など、分け隔てなく! みんなでテーブルを囲みました」 

 さすがは、三次面接に残っているだけはある。キラキラとした瞳で滞りなく答える桜木は、自信に満ち溢れている。

 履歴書によると、異世界での通り名は【慈愛の美女神】。読み方は、「みめがみ」か「びめがみ」か、それとも「びじょかみ」? よく分からないが、口に出すと微妙にダサいことはさて置き、この肩書きが彼女に与えたであろう自信の大きさは、十分に想像できる。

 さぞチヤホヤされたんだろうね。でも、うちの会社はそう甘くないよ。

 わたしは少しだけ意地悪い気持ちになって、手を口の両端に添え、メガホンの代わりにして話した。

「そうですか。では、本当はどんな方が来ていたのですか?」

 わたしの質問に、桜木は「えっ!」と困惑した表情を浮かべた。

「あの、先ほども申し上げた通り……。もちろん、イケメンの貴族騎士たちです。イケメンの胃袋を掴まないと、異世界に行く意味なんてないですよ!」

 ほら、やっぱりね。

 わたしは、自分の言葉に驚愕し、目を丸くする桜木を見ながら、「そうですか。イケメン貴族騎士ですか」と頷いた。

 何を隠そう、わたしは異世界から逆に日本にトリップしてきた人間なのだ。

 わたしのスキル【暴露】を使えば、問い掛けられた者は、一切の嘘偽りを述べることができない。

 スキルの発動条件は非常に緩く、「メガホンポーズで声を聞かせる」ことだ。

 代償も一応存在し、スキルを連発し過ぎると「急性スキル中毒」を発症してしまう。と言っても、徐々に呂律が回らなくなる、幻覚を見る、意識が飛ぶ等の、なかなかにヤバい類いの症状が出るため、面接時──特に就職活動シーズンの繁忙期には、自己の体調管理には心を配っているのだ。

 まぁ、この業界も長いから、スキルを使わなくてもある程度の就活生は捌けるし、自分の限界ラインも体で覚えているんだけど。

 とにかく、余程の異常事態──相手が耳栓やイヤホンをしていたり、こちらの喉が潰れたり、両腕が斬り落とされたりしない限りは、【暴露】のスキルは使用でき、面接室はわたしの無双空間。みんな大好き「チートスキルで面接無双」なのだ。

 羨ましいと、部下からはよく言われるが、無双はそんなにいいモノじゃない。どうせ無双するなら、わたしはテレビの前でコントローラーを握って、敵をバッタバッタと斬りまくりたい。もしくは、巨大ロボで大暴れしたい。

 わたしの無双は、ただの仕事。

 求められ、それなりのやり甲斐と報酬があるから続けられる、ビジネス無双だ。別に、「俺TUEEE!」がやりたいわけでも、調子に乗っている異世界トリップ就活生を虐めたいわけでもない。

 だが、社長からは「三次面接は、就活生の本音を丸裸にするように」と仰せつかっているため、わたしはスキルの使用を躊躇わず、徹底的に面接する所存である。

「では、そのイケメンたちは、あなたの料理で癒されたと? 聖女の料理には、癒しの力があるんですか?」

「いえ。聖女の肩書きそのものが、いいブランドなんです。イケメンがわらわら寄ってきました。私の作る和食を珍しがってくれて。……って、私、また変なこと言ってる!」

「いいえ。桜木さん、その調子でどうぞ」

「あのっ、わ、わたし……。ちがっ」

 桜木はしどろもどろで否定しようとしているが、この面接室で彼女を救う者はいない。わたしは容赦はしないし、集団面接で順番を待つ者たちは、冷や汗をかいて黙って俯いている。

「焦らなくていいですよ、桜木さん。で、その和カフェを辞めて、なぜ我が社を志望されたのですか?」

「辞めたのではなくて、お店が潰れました……」

「潰れた? 何故ですか?」

「料理やスイーツは、初めは喜ばれたのですが、徐々に素人モノだとばれていって、お客さんが減っていきました。そうなると、従業員にお給料が払えなくなって、稼ぐために料理を値上げしたら、ますます客足が遠のいてしまって……。さ、最後には、テナント料が支払えなくなり、聖域の管理者から立ち退きを迫られました……」

 あーあ。もう、半泣きじゃないか。可哀想に、ってわたしのせいだけど。

 可愛い顔が台無しになる一歩手前の桜木を見つめ、わたしは心の中で「やれやれ」と肩をすくめる。

 素人が異世界トリップではしゃいだ結果、見切り発車で店舗経営に乗り出し、大惨事を引き起こす例は、実は後をたたない。異世界は、夢の国ではないのだから当然だ。

 一度、場所を異世界ではなく日本に置き換えて考えてほしい。カフェであれ、レストランであれ、薬屋であれ、玄人が真面目にやっていたって廃業や閉店に追い込まれてしまう店は数多い。

 原因は、商品の質か値段か、接客技術か、店の立地か、それとも外出禁止令でも出ていて客が全く入らないのか。とにかく生産や経営を舐めてかかっては、店はあっという間に姿を消してしまうのだ。

 それをド素人の異世界トリッパーが、雰囲気で経営者にチャレンジしてみて、上手くいくはずがない。

 ごくたまに、玄人がトリップすることもあるようだが、「金貨とか銀貨とか、お金の単位や価値がよく分からなかった」、「パソコンで経理ができず、帳簿をつけてみて気がおかしくなった」などといった経験談を聞くことから、日本とのギャップに精神をやられ、上手くいかないケースも多いようだ。

 履歴書によると、異世界トリップ前の桜木には、店舗経営の経験はないようなので、彼女は前者。ノリで和カフェを始め、行き詰まったわけだ。

「そうでしたか。だから、あなたは聖女の職を辞して、日本に戻って来られたわけですか?」

 わたしは桜木にマイルドに問うたが、十中八九、異世界から逃げ帰って来た、もしくは強制送還されたのどちらかだ。

 世の中、たとえ異世界だからといって、決して甘くはない。英雄談を語れる者など、ごく僅か。大抵のトリップ者は、嘘をついて自らを飾るのだが、桜木も例に漏れないように思われた。

 しかし──。

「……わ、私が日本に戻って来たのは、勉強のためです」

 意外な展開かもしれない。ただ出戻ってきた見栄っ張りの量産型聖女じゃないのかもと、わたしは桜木に期待の眼差しを向ける。

「異世界では、聖女の地位にあぐらをかいて、雰囲気でカフェ経営に乗り出してしまいました。物の需要も賃金の相場も労働基準も知らず、ただ楽しそうという理由で始めてしまったことが、私の失敗です」

 桜木は、先ほどまでは慌てていたが、落ち着きを取り戻したらしい。再びハキハキと話し始めた。

「異世界での失敗を反省し、私は大学に入り直し、経営について学びました。ヒト、モノ、オカネの流れを把握する能力は、御社できっと役に立ちます」

「実績はあるの?」

「ありませんが、御社に入社した暁には、結果で証明致します」

 ほう。なかなかキッパリ言うじゃないか。ちょっと興味が湧いたよ、桜木さん。

 わたしは微笑みながら、次の履歴書をめくった。

 ***

②仙道蓮(21)

「姓はセンドウ、名はレンと申します! タイダルニアって異世界で、Sランク冒険者やってました」

 仙道は、よく言えば明るくて華がある。悪く言えば、軽くてチャラそうな印象の男の子だ。

 わたし統計ではあるが、この手のタイプは、異世界で強敵を片手でほふりながら、可愛くて従順なパーティメンバーと旅をする。旅の目的が冒険なのか、それともハーレムを築くことなのか分からなくなるくらい、異世界でハメを外す人種ではないか──。

 いやいや、面接前に偏見を持つのはよろしくない。さて、まずは【暴露】スキルなしでいくとしよう。

「仙道君、自己PRをお願いします」

「はい! 僕は、協調性に自信があります。なぜなら、異世界では仲間たちと共に旅をして、共に戦ってきたからです。とくに、バトルでは僕は司令塔として仲間に指示を出し、Sランククエストを何度も成功させました」

 わぁ。耳にタコができるほど聞いたテンプレ文章だ。

 わたしが胸中呆れていた理由は、異世界トリップ者ばかりがパーティの司令塔をやっているわけがないと分かっているからだ。

 仮に、異世界人の仲間が驚くほどポンコツだとしても、ポッと出の日本人の若者があっという間に彼らの信用を勝ち取り、命懸けの戦いを取り仕切るなんて有り得ない。

 わたしならば、よほどカリスマ性のある者が現れても、その者をリーダーに据えるには、数年の観察期間をいただきたい。

「お仲間と上手く戦ってこられたんですね。ちなみに仙道君自身は、どのようにして戦っていたのですか?」

「はい。僕は、アサシンとして戦いました。異世界にトリップした時に女神様から授かった【経験値10倍】のスキルで、バリバリレベルアップして、それはもうスパーンッと!」

 出た出た。女神様とチートスキル。この辺りは、掘り下げておきたいな。

「では、仙道君は【経験値10倍】のスキルを活かして、仲間と冒険をされていたのですね。わたしからすると羨ましいスキルですが、仲間の方々からは、あなたはどのような評価を受けていましたか?」

 面接にありがちな質問。だが、ここでは嘘は許されない──。

 わたしは穏やかな笑みを浮かべながら、手をメガホンにして、【暴露】のスキルを発動させる。

 すると仙道は、想定していた質問だと言わんばかりに胸を張った──が、もちろん出てくる言葉は彼が想定しているものではない。

「仲間からは、調子に乗るなと……。あとは、女子メンバーをエロい目で見ていると言われました。って、ええっ。オレ、今何つった?」

 おいおい。大きなリアクションだな。これはスタートイ名物の【暴露】面接なんだが、先輩訪問や企業研究を怠っているんじゃないか?

「仙道君。お仲間からなかなかの言われようだけど、本当に上手く連携できていたのですか?」

「いえ。オレ、パーティの輪を乱すからって、追放されたんです」

 出た、追放。

 日本人の異世界トリップ者は、割とすぐに追放される。職業がお荷物、スキルがショボい……、でも実は優秀だったという「追放トリップ者」は、今や小学生のなりたい職業ベスト3に居座っている。

 だがしかし、現実はそれほど甘くはない。

 異世界の追放事情は、汚職に手を染めた会社役員に匹敵するほど重く、一度パーティを追い出されると、別のパーティへの加入や転職は困難を極め、社会生活すらままならなくなってしまうのだ。世知辛い世の中だ。

 そして、わたしはそれを踏まえて仙道に尋ねる。

「あなた自身は、その追放に納得したんですか?」

「そうですね。オレ、【経験値10倍】のスキルのおかげで、序盤はステータス最強だったんですけど、実践の経験が足りなくて、仲間の足を引っ張ってたんです。スキルに甘えてたら、いつの間にかレベルまで仲間に追い抜かれてたし。だから、納得はしてます。でも──」

 仙道は、悔しそうに拳を握りながら口を開く。

「オレを追放したあいつらを、見返してやりたいです。今は、地道にたくさん経験を積んで、しっかり働こうって思ってます」

 この言葉は、心の底から出たものだ。仙道の反省から生まれた強い意志は、ホンモノ。長年面接官をやっているから分かる。

「あなたにそれができますか?」

「パーティを追放されてから一年間は、ギルドの受付事務でお金を稼ぎながら、冒険者養成学校に通ったんです。だから、目標を持って努力を続ける力はあります」

 そして、仙道は日本に帰って来た理由について、「冒険者って生活が不安定だし、歳をとったら続けられないでしょ?」と、笑いながら付け加えた。

 へぇ、意外だ。冒険者をフリーター扱いとは、結構現実を見ているね。

 たしかに、冒険者の収入は安定しない。さらに、勇者や聖女に世界を救われてしまうと失業しがちだし、年齢を重ねると、「あの人、まだ夢とかロマンとか言ってるよ」などと周囲の冷ややかな視線に晒されることも多くなる。もちろん本人の体力や魔力も衰え、「心は現役なのに体がついていかない」をひしひしと感じながら、金貨の残り枚数を数える羽目になる。実に悲しい現実だ。

「だから自分は、御社に就職したら、『夢とロマンを追い続けることができるゲーム』作りに携わりたいです!」

 リベンジは日本で──。悪くないんじゃない?

***

③支倉龍斗(28)

「支倉龍斗と申します。大学2年の時にトラックの玉突き事故に遭い、一度死んでいます。しかし、自分の死は手違いだったと神様に言われ、お詫びに【創造】のスキルを持った状態で、異世界にトリップさせてもらいました」

 おおお。これもしょっちゅう履歴書で見かけるぞ。そして神様は、よほど雑な仕事をしているらしい。

「支倉君が異世界でとくに頑張ったことは何ですか?」

 わたしが尋ねると、支倉は「私は嘘は申しませんので、スキルは使われなくていいですよ」と、釘を刺してきた。どうやら、面接について事前に調べて来ているようだ。

 支倉は、スクエア型の眼鏡を押し上げながら、再び口を開く。

「私がトリップしたのは、廃村寸前の小さな村だったのですが、その村の観光地化に尽力致しました。具体的には、【創造】のスキルを使用して、特産物の生産、温泉施設の整備に力を入れました」

 これも本当に頻繁に聞くぞ。スローライフと農業ってワードこそ使ってないが、何でも作れちゃうスキルで、夢の場所を築くってやつ。

「今、どうせスローライフだろうって、思われました?」

 心を読んだかどうかはさておいて、支倉に鋭く言い当てられてしまったわたしは、「違うのかな?」と冷静に切り返した。

「大きくは違いませんが、自給自足や畑仕事は趣味じゃなかったので、全自動の農業機器や、作業ロボットを作りました。なので、スローではないです」

 おいおい。ハード面の強化がすごいな。

「楽するに越したことはないじゃないですか。機械を作って、使い方を村人に教え込む労力だけで済むんですよ?」

「なるほど。一つの意見として受け取っておきますね」

 支倉は、やりたい放題なスキルを所有していたわけだが、実際にやったことは日本文化の複製だ。そして異世界の住人にとっては新しく珍しいためか、それらは異常にもてはやされる傾向にある。

 それで成功しても、君の手柄じゃないよ。過去の偉人たちの模倣に過ぎない。

「では、支倉君は町づくりをしてきたようだけど、スタートイに来たら何がやりたいですか?」

 うちよりも、役所の観光課や地域推進課の方が向いてるんじゃない?

 そんな言葉を飲み込んだわたしは、彼がスタートイを志望した動機を求めた。

 すると支倉は、「ゲームを作りたいです」と至極当然のように答える。

「【創造】のスキルでは、テレビゲームもスマホゲームも作れなかったんです。もちろん、自分の大好きなゲームを異世界でも遊びたかったので、何度も創造を試みました。でも、好きだからこそ、妥協したくなかったんです」

 わたしは、チラリと支倉の履歴書に目を落とした。そこには、異世界から帰って来てから大学に復帰し、プログラミングを履修したことや、独自にアプリゲームを開発したことが書かれている。

「ゲーム作りの技術は、御社がどの世界においても一番だと考えております。だから、私は御社で最高に面白いゲームを作りたいです」

 そうか。支倉君のやりたいことは、異世界じゃなくて日本にあるんだ。彼は、そのことに異世界で気が付いたんだ。

「支倉君にとって、最高に面白いゲームって?」

「レベルとスキルのバランスが丁度いいRPGですかね」

 その気持ちは、わたしにも分かる。

 娯楽は、快適さとやりがいのバランスが大切であって、それを客観的に見れる目が大切だ。無理ゲーもヌルゲーも面白くない。

 ちなみに支倉は神様に交渉し、異世界の村で稼いだ全財産の贈与と【創造】のスキルの返却を条件に、日本に生還できたらしい。

 神様を言いくるめてしまう交渉術、なかなか肝が座ってるな。


***

 そして、面接室から就活生たちは退室していった。

 はぁ、今日も疲れた。スキルを使うと、いっそうくたびれるんだよ。

 わたしは、うーんと伸びをしながら、バレないようにこっそりとあくびをした。

「あの、部長……。とくに最後のグループの子たち、なかなか曲者揃いでしたね。私、彼らの、異世界で大成功したって話を信じていたのでなおさら……」

 わたしの隣で面接を見守っていた部下の灰原は、二次面接までの責任者で、申し訳なさそうな声を絞り出していた。

 彼女には、わたしの【暴露】のようなスキルはない。生粋の一般市民だ。なので、こそまで落ち込まなくても……とわたしは思うのだが、どうやら異世界トリップ問題児を見抜けなかったことが、たいそうショックだったらしい。

「どの子も、手放しで褒められるような実績がなかったじゃないですか。自分、てっきり今年は豊作だと思ってしまって……」

「いいや。豊作だよ」

 わたしは「ふふふ」と笑いながら、机を片付けていた。しかし、最後の三枚の履歴書だけは、そっと灰原の前に並べてやった。

「彼らは三次面接通過。次は、社長面接だ。メール送る準備しといてもらえる?」

「えっ! 本気ですか?」

 灰原は仰天した様子で、わたしを見返していた。そして目の前の履歴書に視線を落とすと、やはり納得いかないようで、眉間にシワが寄る。

「カフェを潰した聖女と、パーティを追放された冒険者、アンチスローライフですよ?」

「いいじゃないか。失敗したり、気付きを得ることで成長できる。君だって、魔王の秘書をクビになったから、日本で就活したんでしょ?」

 わたしに過去の傷を突かれ、灰原は「まぁそうですけど」と口籠った。

「スタートイは、異世界トリップに負けない、面白いゲームを作らなくちゃならない。そのためには、異世界を越えていく必要があるんだから」

 わたしは、面接室を出ようとドアに手を掛けた。

 就活生諸君。社長面接、頑張ってくれたまえ。

 そして願わくば、次に会う時は同じ社員として、君たちのリスタートを見せてくれ。

#創作大賞2024
#漫画原作部門

第2話 https://note.com/cocozuba1234/n/ncf4e6161d1f1

第3話 https://note.com/cocozuba1234/n/ncf9ec1846890


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