ゆちば

作家・漫画原作者 商業作品あり。 異世界FG、グルメもの、ラブコメが好きです。

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作家・漫画原作者 商業作品あり。 異世界FG、グルメもの、ラブコメが好きです。

最近の記事

「憎い仇(魔王)が過保護に世話を焼いてくるけど、復讐の花嫁は今日も魔法をぶっ放す」第3話

【第3話】 「泣くナ」  兜の下の紅眼がじわりと滲むように揺れたかと思うと、魔王は左手で私の頬を伝う涙を拭おうとしたのだ。 「え……」  唖然として動けなかった私の頬を魔王の指が撫で――……。 「◎×△●●◇~~ッ‼」  スパッと頬が切れ、真っ赤な血が噴き出したものだから、私は言葉にならない特大の悲鳴を上げた。まるで地面から抜かれたマンドラゴラのようだったと思う。  魔王の左手には鋭利で長い獣の如き爪があり、それが私の頬を斬り裂いたのだ。 「こ……っ、この卑怯者!

    • 「憎い仇(魔王)が過保護に世話を焼いてくるけど、復讐の花嫁は今日も魔法をぶっ放す」第2話

      【第2話】  そして、人里離れた森での生活が始まった。  魔王が連れて来た家だというのに、中には小さいながらもきちんとした調理場があり、真新しい調理器具や、外には石窯まである。そして二階には一人用のベッドと女性ものの衣類がいくつか置かれており、こちらもまっさらだった。 (ひとつひとつ、すべてが新しい……。魔王が私のために用意した物だというの……?)  いやいや、何かの間違いだ。魔物を率い、虐殺を繰り返していた【異形の魔王】が、そんな人間じみた真似をするわけがない。きっと新

      • 「憎い仇(魔王)が過保護に世話を焼いてくるけど、復讐の花嫁は今日も魔法をぶっ放す」第1話

        【あらすじ】 「神に誓って、必ずバゼルの仇を討つ!」 聖女マーニャは、かつて魔王との戦いで愛する人を失った。 その後、失意のマーニャは望まぬ婚姻を結ばされるが、結婚式で彼女をさらったのは仇である【異形の魔王】だった。 人里離れた森でひっそりと暮らし始めたマーニャは、体力と魔力を取り戻し、魔王への復讐を決意する。 その日からマーニャは魔王を見かけるたびに神聖術をぶっ放す生活を始めるが、魔王はマーニャを何かと気にかけ、過保護に世話を焼いてくる。 どこか憎めない醜い魔王と復讐に燃え

        • 「恋煩いとルームシェア」第3話

          【第3話】  いつも通りの孤独で平穏な午前中が過ぎていった。  だが昼休みになると、なんと普通科の生徒ら数人が俺の教室にやって来たのだ。 「体育委員の人いる~? 高瀬颯真から連絡来てない~?」  大声で叫んだのは、ちょっとチャラそうなダンス部員。ピアスが耳にいっぱい付いていて、シールだと思うが襟元にタトゥーが見える。俺だけでなく特進科クラス全体がひゅっと息を吞むのが分かった。  どうやら、彼らは欠席している颯真と連絡が付かないことを気にしているらしく、関係のありそうな生

        「憎い仇(魔王)が過保護に世話を焼いてくるけど、復讐の花嫁は今日も魔法をぶっ放す」第3話

        • 「憎い仇(魔王)が過保護に世話を焼いてくるけど、復讐の花嫁は今日も魔法をぶっ放す」第2話

        • 「憎い仇(魔王)が過保護に世話を焼いてくるけど、復讐の花嫁は今日も魔法をぶっ放す」第1話

        • 「恋煩いとルームシェア」第3話

          「恋煩いとルームシェア」第2話

          【第2話】  翌朝俺は、狭い部屋に香る味噌汁の匂いで目が覚めた。作ってくれたのはもちろん、同居人の颯真だ。 「いい匂いする……」  まだ目が半開きの俺がベッドから転がり落ちるようにコタツに移動すると、「おはよーさん」とご機嫌な颯真の声が頭上から降ってきた。 「味噌汁紙コップに入れたけど、いいよな? ってか樹ん家、食器ぜんぜんねぇじゃん。不便じゃね?」 「紙コップで十分。ってか、下宿生の男子の家に食器を望むな」  ようやくちゃんと目が開いた俺は、コタツのテーブルの上に

          「恋煩いとルームシェア」第2話

          「恋煩いとルームシェア」第1話

          【あらすじ】 「樹! オレ、【恋ワズライ】になった!」 高校一年の冬のこと。 クラスで浮いている柊木樹は、人気者の高瀬颯真からそう告げられた。 【恋ワズライ】――。 発病時に初めに認知した人間を愛してしまう病気。自然治癒するものの、日常に支障をきたす身体・精神状態に陥りやすく、早期治癒のためには求愛症状の管理が必要。 颯真は樹に恋をしたといい、求愛症状のケアのためにルームシェアをしようと提案する。 密かに颯真に片想いをしていた樹は、彼の力になろうとルームシェアを始める

          「恋煩いとルームシェア」第1話

          「うちのお嬢はハイスぺ亜人をご所望らしい~おじさん執事は静かに婚活を見守りたいのに~」第3話

          【第3話】  いつの間にか、侍女の中に変装した悪党が紛れ込んでいたらしい。  返り血をまとった悪党は、トドメの一撃を追加しようと思ったのだろう。俺の背中からナイフを引き抜こうとし――。 「む……っ! 抜けない……⁉」  ナイフは俺の背中に刺さったままびくともしない。悪党は顔を真っ赤にしてナイフを引っ張るが、まるで滑稽なパントマイムのようにしか見えない。 「ご苦労さん。俺、実は脱いだらすごい系なんだわ」  振り返り、俺がニヤリと笑う。  すると同時に、聖剣グラディウスの

          「うちのお嬢はハイスぺ亜人をご所望らしい~おじさん執事は静かに婚活を見守りたいのに~」第3話

          「うちのお嬢はハイスぺ亜人をご所望らしい~おじさん執事は静かに婚活を見守りたいのに~」第2話

          【第2話】  ビースト帝国は獣の特徴を体に持つ種族――獣爪族の国であり、大陸一の国土を有する。内には草原の民、山の民、砂漠の民がおり、遥か昔には大陸を揺るがすほどの統一戦争が繰り広げられたのだが、今は【砂漠の灰色狼】カーラー一族が帝国全土を統治している。  そのカーラー一族の第三皇子ヴィシュヌは、三年前の戦争で両親を討たれ、復讐のため悪鬼の如く敵を殲滅し続けていたところをベリームーンお嬢に拾われ――。 「ベリームーン、久しぶりだな。すごく……、すごく会いたかった……!」

          「うちのお嬢はハイスぺ亜人をご所望らしい~おじさん執事は静かに婚活を見守りたいのに~」第2話

          「うちのお嬢はハイスぺ亜人をご所望らしい~おじさん執事は静かに婚活を見守りたいのに~」第1話

          【あらすじ】 花婿の条件は『屈強』な『亜人』! 大陸を救った勇者ベリームーン・フォン・マルドル伯爵令嬢。 結婚願望のあるベリームーンは、おじさん執事のジェドと共に婚活を始めるが、相手は亜人に限ると宣言。 獣人の皇子やエルフの大魔術師など、ベリームーンの花婿候補は一筋縄ではいかない者たちばかり! おじさん執事のジェドは、いったい誰がお嬢をもらってくれるのかと気が気ではない。 けれど、お嬢とジェドには秘密があって――? 【第1話】 「ジェド、悲しいお知らせよ。私、婚活するこ

          「うちのお嬢はハイスぺ亜人をご所望らしい~おじさん執事は静かに婚活を見守りたいのに~」第1話

          「転生者たちの就活事情~君、異世界生活で学んだことは?~」第3話

          ●美山れな(21)、鳴海詩織(34) 「美山れなと申します。私は、御社から配信されている乙女ゲームの世界で、前世の記憶……美山れなの記憶を取り戻し、一年間メインヒロインの令嬢、リリーナ・マインフォードとして活動しました」  うちの会社で作ったゲームの異世界か。その異世界の神様や創世者は、うちのゲームのヘビーユーザーなのだろうか。  わたしの担当するテーブルにいる就活生──美山れなは、勝ち気そうな印象の女性だった。令嬢というよりは、むしろ冒険者によく見るタイプだ。  そ

          「転生者たちの就活事情~君、異世界生活で学んだことは?~」第3話

          「転生者たちの就活事情~君、異世界生活で学んだことは?~」第2話

           わたしは、日本の大手ゲームメーカー株式会社スタートイの採用人事の面接官だ。  仕事柄、この異世界トリップが日常化した日本に於ける異世界の人気職業については詳しいと自負している。  勇者や聖女、最近は原作内容を変えたい悪役令嬢なんかも注目を集めているが、いつも安定の4位あたりに位置する職業がある。  それは商人だ。  どこの世界でも、人間誰しもじゃんじゃんお金を稼ぎたいという欲がある。  異世界トリップ者ならば、いわゆる副業としても、アイディアひとつで十分に稼ぐこと

          「転生者たちの就活事情~君、異世界生活で学んだことは?~」第2話

          「転生者たちの就活事情~君、異世界生活で学んだことは?~」第1話

          【あらすじ】 「私は異世界をハズレスキルで成り上がり、発想の転換の大切さを学びました」 「異世界でスローライフを経験し、物作りや商売へのやりがいを感じました」 「婚約破棄後に貴族社会を生き抜いたコミュニケーション能力は、必ず御社で活かすことができます」……。 今の日本では、若者が異世界に行って帰ってくることは珍しくない。 そのため特に就職においては、異世界で何をしたがが重要視されていた! 聖女、冒険者、勇者、悪役令嬢……。 聞き飽きたテンプレを引っ提げて面接に臨む若者たち

          「転生者たちの就活事情~君、異世界生活で学んだことは?~」第1話

          「サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。」第3話

          「次は光魔法を出すぞ。命が惜しくば、即刻立ち去れ!」  フェルナン王子が声を張り上げると、クズボン及び隣町のほぼ大人の先輩たちは、大慌てで逃げ出した。  そして、残ったのは挙動不審な私とフェルナン王子だけ。 「あ……、ありがとう……ご、ございました」  ぎこちない数年ぶりの敬語。  私はフェルナン王子の王子オーラにすっかり当てられ、縮こまってしまっていた。まさか、目の前に本物の王子が現れるなど、誰が想像しただろうか。まるで夢でも見ているかのようで、私はおずおずと話しか

          「サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。」第3話

          「サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。」第2話

           アルヴァロ・ズッキーニがフェルナン陛下に仕え始めてから、三年が経つ。  彼は美しい金髪に翠眼をした、まるで女性のように小柄で華奢な美青年でありながら、修道院で身に着けた神聖術と騎士学校一の剣術使いという、とても優れた聖騎士だった。  フェルナン陛下もアルヴァロをたいそう重宝し、いつもそばに置き――……。  と、第三者目線で語ってみたが、アルヴァロは私、アルヴァローズが男装した仮の姿だ。 黒魔術師の奇襲、そして【女体化の呪い】事件から一週間――。  国をあげて黒魔術師の

          「サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。」第2話

          「『サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。」第1話

          【あらすじ】 フェルナン陛下に密かに想いを寄せる護衛騎士アルヴァロ。 その正体は、女嫌いの陛下のお傍にいるため男のフリをしている元令嬢アルヴァローズだ った。 だがある日、陛下を庇って黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 アルヴァロのたわわなたわわの存在が顕になり、驚いた陛下が叫んだ言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 従者が呪われてしまったと勘違いした陛下。 アルヴァロは男のフリをしていたことがバレてはまずいと思い、その勘違いに乗っかるこ とに。 し

          「『サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。」第1話