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「天使が歌う欲望の詩」を聴け
令和の 迷惑な聖者ら
よってたかって才能を叩き潰し
辟易 その時 天からの思し召し
天使が歌う欲望の詩
哀愁帯びたブルースハープの音色が胸に突き刺さる。バンドサウンドとストリングスが複雑に絡み合う大胆なアレンジこそが、GRAPEVINEというロックバンドに備わった批評性の高さ。「天使ちゃん」はその真骨頂になるのだろう。しかし、今回ばかりは「ちょっとやり過ぎなんじゃ…?」と引いた。いや、聴いたら皆ギョッとするはず。だって第一声が<あざっす>だよ?!?!
そもそも田中和将と言う人は、誰が聴いても理解できるような、あからさまな表現を避けるタイプのミュージシャンだったが、2021年リリースのアルバム『新しい果実』あたりから、歌詞をオブラートに包まない仕様に変えてきている。ふざけているようで辛辣。救いがあるようでない。「昭和」「平成」「令和」という3つの時代を象徴するようなワード(それに気づくのはだいたい40代以降)が散りばめられ、目を瞑っていては許されない現実を見せられているような気分になる。それなのになぜ「天使ちゃん」という可愛らしいタイトルにしたのだろうか。なんだか昭和のアニメ感あるな、と思っていたら手塚治虫の「メルモちゃん」を思い出した。ただ(繰り返すようだが)言葉を強めにして言っておきたいのが、皮肉なことに、決してファンタジー要素満載の曲ではない。
「天使ちゃん」では、田中和将はギターを弾かず、ブルースハープとボーカルのみ担当。そのライブパフォーマンス動画も配信されたが、キャリア30年バンドが、こうして次々と新しいことにトライしていく姿って、今の若いバンドマンには一体どう映るのか?個人的にはとても気になるところ。会社員で例えたらGRAPEVINEのメンバーは部長クラスの役職が就く世代になる。そんなことを考えながら「天使ちゃん」を聴くと、私は狼狽えてしまった。もうちょっと頑張らないとダメだという謎の気合いが入る。なんなんだろう、この高揚感は。
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