空と草原のその先を

「ヴィーは将来、とびきり美人になるよ。僕が保証する」
金糸が混ざる、若草色の髪。蜂蜜を溶かしたような瞳。少しだけつり上がった大きな目が冷たく感じないのは、くるくるとよく変わる表情のおかげだ。
優しさとはつらつさ。太陽の光、空と草原のその先を求めることを恐れない勇敢さ。
それがヴィヴィアンという少女だった。
青年はそれらすべてを含めてその言葉を伝えたつもりだったが、当の少女は顔をしかめて冷たい感想を返しただけだった。
「…誰彼構わず口説き始める羊飼いに言われても、全然嬉しくない」
「ははっ。これは手厳しい」
青年は軽やかに笑うと、草原に直接寝転がった。つられるようにヴィーも少し距離を開けて、草の上に腰をおろす。
「仕事しなくていいの?」
「今日は親父の手伝いだけさ。ちょっとぐらい休んでも大したことじゃない」
「また怒られても知らないからね」
「それはその時だ。ヴィーを身代わりに僕は逃げる」
「…最低な羊飼いね」
「今日は職業差別がすごいなあ!」
ヴィーの父親も羊飼いだった。ヴィーは羊飼いが好きではなかった。
羊を連れて行ったと思ったらろくに帰ってこない。帰ってきたら見知らぬ子供を拾ってくる。ヴィーにとってまさに羊飼いはろくでなしの象徴だ。
けれど羊飼いがいなければ、ヴィーがここまで育つことはなかった。
「…お? どこに行くの?」
「あなたのお父様を手伝ってくる」
立ち上がって見下ろすと、青年は思ったより背は高くなかった。それでも同じように地面に立てば、やっぱり見上げるしかないのだろう。
「うわやめようよ。僕が怒られるじゃん」
「一緒に行きましょ。ほら、早く立って」
「えー。しかたないなあ」
渋々立ち上がると、青年は先に駆け出した。不意をつかれたヴィーが一拍遅れて走り出す。
少女は退屈と小さな世界を疎んで村を飛び出した。けれど、あのささやかでありふれた日常を愛していないわけではなかったのだ。

(いいわけ)808字。羊飼いの娘だったヴィーの話。

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