話してほしい話

「眠れないのか?」
「コーン」
闇の中、差し出されたカップを受け取る。
久しぶりの野宿。寝ずの番は自分から申し出た。心配そうな顔をする二人をあしらって、一人でたき火の前を陣取れば、諦めたように眠りについたはずだった。
「眠れなくていいんだよ。見張りなんだから」
「それもそうか」
木の根元に二人座って、カップの中身をすする。思ったのと違う濃厚さと、鼻を抜ける甘い香りに目を見張る。中身を見ていなかったが、これは旅の途中で持ち歩けるものじゃない。思わずコーンを見る。
「はちみつミルクなんていつ手に入れたんだ?」
「この間、お屋敷に入らせてもらった時に"ちょっと"な」
ニヤリと、ゴロツキの下っぱのような笑み。勝手に金品を拝借してきたということだろう。手癖の悪さは俺よりも最低だ。
「速攻で金に換えてもらったから、リオにはバレてないはずだぜ。お前も共犯な」
「…相変わらず器用なやつ」
「褒め言葉?」
「まさか」
「こんにゃろ」
言いながらコーンは笑っていた。笑い声を立てないようにしたのか、小刻みに呼吸音が聞こえてくる。
月はもうすぐ昇りきる頃。無風だから、木々も眠ったように静かだ。それでも土の匂いは変わらないままで、大きく深呼吸をした。
「オレさ」
コーンの声は吐息を含んで抑えた音量だった。いつもの朗々とした空気はなりを潜めて、夜の空気に押しつぶされそうな、何かを迷っているような声音。
「お前達の話なら何でも聞きたいって思う。笑ったりしない」
「………」
「悩んでる仲間の手を取れない方が嫌だ。オレはバカだけど、話聞いたり、お前の盾になることぐらいできるよ」
そこまで言い切って、コーンは照れたように笑った。火の光に照らされて、あまりにもいつも通りの笑顔だった。
コーンもリオも、話せとは言わない。だけど俺が話したら、きっといつだって力になってくれる。これはその宣言だ。
だから俺はまだ悩みを抱えてウジウジできる。もう少し、あと少しだけ。
照れ隠しにコーンの脇腹を小突く。コーンはまるで自分が兄であるかのように、俺の頭をはたいて笑っていた。


(いいわけ)874字。前回と繋がっているようなそうでもないような。常に夜のシーン多くてわらう。

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