強くなりたい話
「早く強くなりたい」
それは嘘じゃなかった。
朴訥とした小さな村。羊飼いの家。見晴らしの良い草原。それが私の世界だった。
このまま小さく閉じた世界で死んでいくのが嫌で。自作の弓と、少しのお小遣い、こっそり持ち出したパンと水を持って、夜明け前に家を飛び出した。
何度も死にかけた。一撃で仕留めきれなかった魔物に返り討ちにされたり、宿に入るお金がなくて街の隅で眠ろうとしたら凍死しかけたり。
その生活の中で学んだのは、私は一人で生きていく能力が無いということだった。
無謀だったんだと思う。やっと両手で年を数え切れなくなった頃に一人で旅をするなんて。
けれどどうしても村には帰りたくなかった。半ば意地のようなものもあったと思う。行きずりの誰かに助けられてどうにか生きてこれたけど、いよいよ無理かもしれない。
何度目かの、朦朧とする意識。そんな中で出会ったのがアレックスだった。
あの時もアレックスは強くて優しかった。見かけたまだ弱い私を心配だからと、つかず離れずついて来た。私は一人で旅をすることが目的だったから、何度も何度も突っぱねたけど、それでもアレックスは気を遣いながら時々手を差し伸べてくれた。
情けないことに、ちゃんと相棒になった今でもそれは続いている。
「ヴィー。これを少し食べてくれ。焼きすぎた」
洞窟の中の野宿。洞窟の入口で焼いた肉をアレックスが差し出す。先程仕留めた魔物の肉だ。
「ありがとう」
器代わりの大きな葉ごと受け取って、その温かさに目を細める。
「…どうした。腹は空いてないか?」
「ううん。…美味しそうだなって見てた」
「冷めないうちに食べた方が美味いぞ」
そう言って棒を刺した肉にかぶりつく彼。……こんなやりとりをいくつもしてきた。
つまるところ、私は彼と対等になりたいのだ。この強さに今は追いつかなくても、時間が許す限り、少しでも近くに。
友人って思ってもらえてるなら、少しだけ進歩したと考えてもいいかなあなんて。口元の緩みを隠すように、彼の優しさを頬張った。
(いいわけ)847字。アレックスはできる男。年の離れた友人ってこういうとこある気がする。
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