君と歩いていきたい道がまだある

「アレックス。あれはなに?」
少女が指差したのは、中央の広場。噴水が吹き出している側で、何人かがかたまっている。特徴的なのは、だれもが大きい荷物を抱えていることだ。
「運び屋だ」
中心の青年を軽く指差し、アレックスは端的に答えた。
運び屋とは、類稀なる瞬間移動能力を駆使して、荷物や時には人そのものを運ぶ、文字通りの職業だ。希少な能力であり人材も限られているため、その利用料金は高いことがほとんど。
それにも関わらず、あのような人だかりができているということは余程の商売上手か、この街の経済水準が高いかだった。
「ふうん…そんな人がいるのね」
「俺もあまり見たことないな」
二人には縁がなかった。冒険者と呼ばれる二人は、旅そのものが目的であり、目的地は通過点に過ぎない。急ぐ理由がなければ、運び屋を利用する考えも無かったのだ。使うとすれば、それはほんの好奇心からだけ。
「一度使ってみてもいいかしら? アレックスはどう思う?」
「………」
アレックスは黙った。少女は慣れたものだったが、体格の良い青年が黙るとそれはそれで空気が重苦しくなる。ヴィーは噴水をぼんやりと見つめながらアレックスの回答を待った。
「俺は、反対だ」
珍しい、と少女は蜂蜜色の目を瞬かせた。いつも優先されている自覚があったために、その言葉は予想外だったのだ。
驚くヴィーに、理由を説明するために言葉を選びながら話し始める。
「旅は身体を動かすものだ。大地を踏んで、風を浴びて、全身を駆動する。苦しみも楽しさも、身体を動かさなかれば、記憶には刻まれない」
見上げるヴィーの額にはり付いた前髪を軽くはらう。一つ一つ、響くように言葉を発する青年がヴィーの瞳に映る。
「俺はヴィーと、そういう旅をしたい。…ダメか」
「……ダメじゃないわ」
「そうか。良かった」
「でも、運び屋もわるくないわね」
「…何故だ」
訝しげに問う青年に、少女は身を翻す。噴水を背に、とびきり弾けるように笑った。
「あなたが自分の望みを口にするなんて、こんな話でもなければ無かったでしょう?」

(いいわけ)864字。最後らへんてきとーになった。すみませんでした。

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