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気まぐれギフト

「……ふぉーゆー」
「わっ、なんですか」
真上から落とされた小さな包袋に、作倉は座ったまま太腿の上で受け止めた。
美術室の雑多な空間に唐突に乱入してきたのは、音無侑弥。
他の美術部員は音無の声にバラバラに顔を上げると、興味無さげに自分の手元に目を戻した。元より幽霊部員も多く在席しており、美術に興味が無い者も多い。部外者が入ってきても特別騒ぎにはならないのもむしろ自然といえた。
「ええと…ありがとうございます…?」
「疑問符とれ」
「…ありがとうございます」
特別棟特有の背もたれが無い椅子を勝手に引っ張って、音無は腰掛ける。Tシャツに半ズボン、首にかけたタオルといったラフな姿から、彼が部活の練習中であることは傍から見てもすぐに分かった。
「…また部活を抜け出してきたんですか?」
「休憩中だから問題無し」
端的に返ってきた答えに、作倉は呆れた視線を投げた。咎めるのも嗜めるのも後輩の立場でやることではない。もらった小袋を机の上に置いて、作業を再開しようと鉛筆を手に取ったが。
「開けないの?」
「開けていいんですか?」
二人揃って首を傾げる。作倉が反射のように許可を求めたのは、家庭の言いつけと真逆のことを言われたからだった。
人から貰ったものはその場で開けない。貰い物にはお返しをする。誕生日の度に繰り返し言われてきた言葉だ。
だから貰った小袋も、家に帰ってから開けようと彼女は思っていたのだが。
「くら助の反応が見たくて買った。だから今開けろ」
「…それでいいんでしょうか?」
「あげた俺がいいって言ってる。くら助が部屋で一人にやにやしながら見たいなら別だけど」
「そういう面倒な誤解が起きるのはちょっと……じゃあ、開けます」
「うん。…きっとお前に似合う」
がさりと。紙でできた材質は思いの外大きな音を立てた。机の向かいに何か言ったかと仕草で問えば、顔を逸らされる。彼女はそれを何も言っていないのだと解釈して、袋の中身を片手で受け止めた。
青い、海色をした耳飾りに、小さな歓声が上がる。そっぽを向いた頬杖に隠された口許が緩んでいるのは、作倉以外の美術部員全員が知っていた。

(いいわけ)892字。私は何故か美術室が一階というイメージが強かったのですが、多くはそうでないようです。特別棟は譲れなかった。

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