あの日交わした約束は放射線の旅路に変わる

「大きくなったら、旅に出よう」
そう言ってくれた君は、どこに行くの。

ざわざわとした教室の窓際。頬杖をついて外をぼんやりと眺める。朝のホールルーム前、ちょうど部活の朝練が終わったばかりの生徒が多い時間帯。テスト前の最後の悪あがきだったり、雑談だったり。多数の人がいる雑音に満ちていた。
「──だから、絶対松崎くんと明里付き合ってるって!」
言葉が耳に飛び込んで来た時、私は変わらず窓の外を見ていた。聞き取れてしまったのは、知った名前が出てきたせいだ。
こちらの気は知らないだろうが、クラスメイト達は話を続けている。
「えー、それほんと?」
「明里が告白でもした?」
「昨日の放課後にしたらしいよ」
すべてが他人事だった。私もあの子達も。
軽く目を閉じれば、瞼の裏側まで眩しくて頭の中がもっと落ち着かなくなった。

松崎宏太は大枠で言えば幼馴染だ。
幼稚園の頃からの付き合いで、それから小学校も中学校も、そして今も一緒。家もほどほどに近所で、お隣さんほど近すぎず、隣町ほど遠すぎず。二人の家の間にある公園がいつも待ち合わせ場所だった。

バイトの無い学校帰りには、散々街をぶらついた後、この公園のベンチでぼうっとしていることを彼は知らない。
不審者と思われないように膝においたカモフラージュの本は、国内旅行のガイドブック。派手な見出しや大きな写真がぎっしりと紙面いっぱいに散らばっている。
数年前に指切りをした約束は、私の目的になっていた。あの日彼が示してくれた『旅』は、確かに私のやりたいことになったのだ。
例え一緒に、が果たされなくても。この目的を見つけたのは私じゃないと覚えていたかった。
『君が泣かないから』と言って泣く君はきっともういない。そんなことをされたら今だってうざいと思うけど、その涙を見せられるような距離に、君はもういないんだ。私が振り払ったんだ。

(いいわけ)784字。この話の続きでした。距離感も絆も大概劣化していく話。

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