人は悲しみに満ちているから、誰かの手垢で汚されてしまったキャンバスにいかに喜びを己の手で描けるかなんです。そうあなたは呟いた。
蝶は一旦、蛹の中でドロドロに溶けてしまいます。そしてずんぐりむっくりした青虫から美しい姿へと生まれ変わるのです。
人々は言います、明けない夜はないと。果たしてそれは希望を指すでしょうか。朝が来る、そのことに誰よりも怯えていたのは、あなたではありませんでしたか。
かりそめの光を浴びて蝶は激しく踊る。まるで全く死を知らないような軌道を描いて踊る。あなたがクロアゲハを捕まえて笑んだ暑い日、私は生まれて初めて本物の悲しみを覚えました。私にとって喜びを描くことはひどく困難で、思うままに生きるあなたのことを、こころから蔑んだのです。
もう、いいことしか起こらない輪廻を蝶は理解しているのです。どこまで許されるか、なんて愚問で、蝶にはあらゆるコトモノが許されているから、だからこそ何もせずにただ嵐の中を舞うのです。許されるとは、そういうこと。
悲しみをひきずりながら、私は生きるしかない。あなたが時折いびつに微笑むのを睨み返しながら、歩き続けなければならない。そしてキャンバスには極彩色の蝶を拡げ、空には茜色の挑戦状を塗り、ワンピースのポケットには歌を詰め込んで、歩き続けなければならない。そしてそのことが、どうしようもなくもう私にとっては愛おしいことなのです。
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ちびまゆさんが日曜作曲で作曲された「嵐に翔ぶ」がとても素敵だったので、勝手ながら曲をイメージした詩を書いてみました。ちびまゆさん、勝手にすみません!ご笑納いただければ幸いです。
(元の楽曲はこちら)
https://note.mu/chibimayu/n/n71de2bbf21bd
よくぞここまで辿りついてくれた。嬉しいです。