その時少女が見たものは
そうかお前には
本当の名前がないのか
そしてそのことを
悲しんでいるのだな
そうかお前には
確かな明日がないのか
そしてそのことに
怯えているのだな
あの日起きたあのことを
フィクションにしたがっているのだな
あの日絶えた人のことを
何もかも忘れ去ろうとしているのだな
その時少女が見たものは
愛を言い訳にした兎の裏切り
その時少女が委ねたものは
破瓜の言葉より激しい衝動
その時少女が決めたことは
死ぬまで生きていくということ
その時少女が願ったことは
「誰か名前をつけてください」
祈りは干上がり
真夏の太陽が
ギラギラ笑いながら
想いの残滓を照らしている
ああ それこそが 光 だと
あたしの欲しかったものだと
気づいた時にはもうすでに
どこにもそれがなくて
そうか あたしは
泣いていいんだな
怯えていいんだな
こんな季節ならば
コンチクショウと
渾身の力をこめて
泣いてやる
怯えてやる
「はじめまして」
あたしがそう口走ると
夢の中で殺したはずの母が
ざぁざぁスコールになって
私の胸をおかした
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