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忘れられない男たち

「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。」
から始まるみうらじゅんさんのエッセイ。
今日フラりと入ったブックオフで買った本が思いの外、面白くつい自分でも書きたくなったので書いてみたエセ・エッセイです。
いやらしい話かぁと、どのエピソードにしようか散々迷った挙げ句、全然いやらしくない話になってしまいました。忘れられない男話はたくさんあるのでとりあえず複数形で…
暇潰しに、よろしければどうぞ♡

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「初恋は一生忘れない」なんていうけれど、初めての恋人のことは皆、どのくらい覚えているものなんだろう。
たとえばそれが初体験の相手だったら。それはきっと絶対忘れられない思い出として心に残っているはずだ。
金内くんは、人生で初めて面と向かって告白されて付き合った、初めての彼氏だった。
高校時代にモテる部活といえば、サッカー部、バスケ部、陸上部…そのあたりが鉄板だったと思う。
でも金内君はクサいダサいで人気のない、剣道部の主将だった。モテるタイプではないけど、真面目でいい人だったような気がする。
正直初めての告白に舞い上がって、よくわからないまま付き合った、そんな始まりだった。
処女と童貞の初マッチング、これで結婚までいくのは1%らしい。蚊に刺されて命を落とす確率も1%らしいが、私からしてみたらもはや都市伝説レベルだと思う。

初デートは原宿でウインドウショッピング。とかく東京に出たがる埼玉民の精いっぱいのおしゃれスポットだ。
初めて入るラフォーレで、買えるはずのない高額な服を眺めながら、それなりに楽しくデートは進んでいたが、ずっと気になっていることがあった。
なぜか彼が、頑なに私の左側を歩きたがるのだ。
そんなデートマナーあったっけ?と不思議に思いながら、ランチの後、トイレで鏡を見てあることに気づいた。今日の服、ブラウスの胸のあたり、ボタンとボタンの隙間からブラがちょっと見えてる…。
トイレから戻って、また左側に来ようとする彼に「そっちじゃなくてこっちに居て」と右側に引っ張ると、バツの悪そうな顔しながら「言おう言おうと思ってたんだけど…なかなか言えなくて、ごめん」と勝手に自供してきた。
今よりぽっちゃりしていた学生時代、体重に比例して胸もそれなりにあったのに、スレンダーな姉の服を借りてきたから完全に自分の責任だったんだけど。この人すごいエッチな人だな…ってちょっと引いたりしてたから若さって残酷。
今だったら、鉄板の童貞ムーブで甘酸っぱいじゃない~♡とか思えるけど、若い男女の温度差ってことさら難しい。

そんな彼とは一か月でお別れすることになるのだが、その間特に進展もなく、電話をしたり、お茶をしたり、これが付き合うってことなんだ~くらいに思いながらふわっとした仲が続いた。

あるとき、彼の趣味のスニーカーと時計のコレクションを見せてもらいに彼の家へ遊びに行くことになった。
もはやときめきよりも、めんどくささが勝ち始めた時期だったので行くかどうか迷ったが、親が買ってきてくれたケーキがあるというのでほいほいと付いて行ってしまった。
今考えると、彼なりに焦っていたんだろう。
なぜかその頃、金内くんの親友からもモーションをかけられていたからだ。別にその親友に特別な感情もなかったし、ただ付き合うことが面倒になってテンションが落ちてただけだけど、そんな最悪のタイミングに、彼はお家デートを企画してしまったのだった。

押し入れいっぱいのスニーカー。18 歳の女子がそれを見てどう反応すれば良かったのか。
「そんなに好きならなんで履かないで押し入れなんかに入れてるの?」なんて無神経なこという女まじで信じらんないって思うけど、当時の私は平然と言ってのけていた。金内くんも段々焦りが増してきたようで、時計のコレクションでちょっとだけテンションが上がり始めた私に、勢いで限定モデルの BABY-G をプレゼントしてしまうくらいには追い詰められているようだった。

コレクションを見終わって、ケーキとお茶をごちそうになりながら、なんかやけに静かな家だなと思っていると「今日は家族が留守なんだ…」と漫画で見たようなセリフを吐く金内くん。

「何かしたかった?」
「したいよ…したいけど…いいの?」
「何をしたいの?」
「チ…チューとか…」
「別にいいけど」
「え?!じゃあするよ?ほんとにしていいの?!」

しつけえな…こういう時クラヴィス様ならスマートにあごクイして強引にキスしてくるんだけどーー。
興奮高まる童貞 vs 乙女ゲーに毒された処女。開きまくる温度差。

「じゃあ、目つぶって」
「うん」 
「…」
「…」
「…」
「しないの?」
「待って心の準備が」
「わかった」
「ちゃんと目つぶってて」 
「…」
「…」
ブロロロロ
「あ」
ガラガラガラ
「ただいま~あら!誰か来てるの?」
これ、漫画で見たことある。
「お邪魔してますー」
「ちょっと~~~オカン早いよ…」

その後のことはあまり覚えてないけど、なんだかんだで別れることになり、彼はセックスどころかキスもしなかった初めての恋人という位置づけになってしまった。
ゆうて、こうして覚えているのだからそれなりに思い出深いものだったのかもしれない。
金内くんとはそれきり音信不通で…ということもなく、この 3 年後、実家に電話があり、借りていた CD を返したいという名目でドライブへ誘われたことがあった。大手の会社の工場の前を通りながら、ここに就職して今はキッチンのシンクを作っているんだと話してくれた。 
大きな会社じゃない!すごいね!なんてお互いの近況を話してたけど、だんだん口数が少なくなる彼に「何か話があったの?」と聞くと、ワンチャン復縁できないかなーと思ってと、正直に答えるから笑ってしまった。その時は違う人と付き合っていたからごめんねと言って、デニーズでパンケーキをごちそうになって別れたけど、そんな風に思い出してくれたことは嬉しかったし、今更だけど可愛い人だな、キスくらいしておけば良かったなと思ったりした。
それじゃあ元気でねと別れ、さすがにもうきっと会うこともないだろうと思っていたのだけど、なんとその 5 年後くらいにまた連絡があった。
脱サラをしてプロレスラーになったから、良かったら試合を見に来て欲しいという。
教えてもらった試合の HP を見てみたけれど、金内くんの姿はどこにもなかった。裏方なの?と聞いたら覆面レスラーなんだという。都合がつかなくて結局行けないまま、もう連絡を取っていない。元彼が覆面レスラーなんて夢があるよね。
キスもセックスもしてなくても一生忘れられない恋人というのも、なんか味があっていいかもしれないと、今なら思える気がする。プラトニックな恋愛、それこそもう都市伝説レベルなのかもしれない。
ま、少なくとも私には、もう無理っぽいけど。

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