幼い頃の妄想遊び
車や電車に乗っているとき、窓の外を見ながら、ある遊びをするのが好きだった。
高速で流れていく景色の中、屋根から屋根へと飛び移りながら自分の乗っている乗り物と同じ速さでついてくる忍者のようなものを想像する遊び。
これだけ言ってわかる方は、私と同じ妄想族の可能性がある。
全くわからない方のために説明すると、これは脳内でできる、何てことない暇潰しゲームのようなものだ。
車窓から見える建物や街灯、電線や塀の上を軽々と飛び越えながら走る何かを想像して、街中を走らせるというものだが…やったことがない方にはピンと来ないかもしれない。
何が面白いかと言われても、それを具体的に言葉にするとなると難しい。
わかりやすく言うと、ゲームの達人がスーパーマリオを最速&ノーミスでプレイしているのを見ているような爽快感的がって、わかりやすいかこれ?
ブロックが空中に点在している、高速でどんどん横スクロールされてしまうボーナスステージをイメージしていただきたい。その数少ないブロックの足場を確実に捉えながら、スクロールスピードに負けない速さで、コインを全て回収してゆく神プレイを間近で見るような高揚感!みたい…な?あんまり変わらないか。まぁいいや。
こんな時、言語化の神(村上龍さんを勝手にそう呼んでる)ならなんと表現するだろうとか考えちゃうくらいには、こういう未知の感覚を表現するのが苦手なので許して欲しい。
昭和のスーファミマリオ世代すぎて、他に比喩できるものがなくて口惜しいが、概ねそんなような遊びで結構楽しいのだ。
しかもこの遊び、誰に教えられたわけでもないのに、昔同じようなことをしてたって話をそれなりに聞くのがまた面白い。
ちなみに走る人は忍者とか猫とか様々なようだが、私の場合は姫に仕える騎士みたいなあれだった。幼女の妄想なんで、そこはまぁ察して欲しい。
そんな感じで想像や妄想を日常にしてきた私だが、小学2年くらいまで、覚醒している時間の1/3くらいは妄想の世界に浸っていたと思う。
朝の集会や、授業中、帰り道や家で過ごすかなりの時間、様々な妄想を繰り広げ、その世界で1人遊びをしていた。
文字に起こすとこんなに狂気的な話になるのかと絶望するが、今回はその話なのだから気をしっかり持って続けたいと思う。
このnote、だんだん自らのやばさを公開していくプレイ場となりつつある気がするな。ま、エッセイなんて多かれ少なかれそんなもんか。
せっかくなので、同じような遊びをしていたというご意見が聞けることを期待しながら、私のお気に入りの妄想遊びベスト3をご紹介していこうと思う。
1つ目は、妄想ロープウェイ。
これは、意外とやったことがある方もいるのではないだろうか。
紙で作った小さなゴンドラに、モールで作った自分の分身を乗せ、できるだけ窓の高い所から床まで斜めに張った糸のレールを走らせる実に単純な遊びだ。アスレチックによくある、ジップライド的なものと言えばわかっていただけるだろうか。
実際は、のっぽさんとゴン太くんが教えてくれたギミック工作なのだが、これが本当に楽しくて週に3回くらいはやっていた。
妄想がつくわけだから、普通に遊ぶだけでなく、その中に様々なドラマが組み込まれる。
悪の組織から逃げる私やテレビで観た外国の街を翔ぶ私、天界から降臨する天使の私やお城に招待される実はお姫様だった私等々。バリエーションに偏りがあるのは幼女の妄想なので以下略。
大事な場面で、通りかかった祖母が糸に引っ掛かり、ゴンドラごと私が床に叩きつけられるのも日常茶飯事だったが、今でも思い出すと胸が熱くなる、お気に入りの遊びだ。
今なら無駄に鍛えた工作力ですごいゴンドラが作れそうだけどなー!
作ったら報告します。
2つ目の遊びは、お買い物袋の散歩。
いきなり妄想レベルが上がった感あるな。
だがこれも、月数回はやっていたお気に入りの遊びなので外せない。言葉の通り、よくあるスーパーのお買い物袋にマジックで顔を書き、2つの持ち手部分をビニール紐で結ぶ。それに3~5メートルくらいのビニール紐を繋げ、袋に空気が入るようにしながら、凧揚げの要領で強風吹き荒ぶ空にその袋を放り投げるのだ。
そうすると、まるで袋が意思を持ったかのように空を舞い、リードに繋がれた子犬の散歩よろしく、お買い物袋の散歩を楽しむことができると言うわけだ。
実は私の実家は関東名物空っ風と、赤城下ろしという二大強風現象が有名な、強風頻度の高い地域だったため、想像以上に激しい風の中でこの遊びはとりおこなわれていた。
可愛い顔(手描き)をした暴れん坊の袋が、縦横無尽に空を舞う。
翔びすぎた時はその手綱を私が引き「暴れすぎだよ」とたしなめたりしながら、土手を走り回るご機嫌な遊びだ。
調子のいいときは10メートルくらいまで紐を延ばして散歩していた。
てか、なんで家族は止めなかったんだよ。
作り話でもなんでもなく、10回以上は間違いなくやってきた遊びだけど、言葉にするとこんな狂気に満ちたものになるなんて衝撃だ。
犬を飼っていたから普通に犬を散歩すれば良かったんだろうが、散歩中お尻を噛まれて以降、私がムック(飼っていた犬)の散歩をすることはなかった。
正直、犬の散歩よりお買い物袋の散歩の方が100倍楽しいから、勇気があったら試してみて欲しい。
何となく辛い作業となってきたが、気を取り直して最後の遊びを紹介する。
3つ目の遊びは、魔法の絨毯ごっこだ。
魔法の絨毯なんて、全世界共通で子供なら一度は憧れるものだし、遊びのテーマとしては超王道だと思う。
で、肝心のやり方だが、まずは強風の日に行うこと。またかよ。
用意するものは、学習机の上に敷かれていたビニールの分厚いマット。
机とビニールマットの間にプリントや切りぬきを入れて機能的に使ったり、机の木面に傷をつけないように守るマットと言えばおわかりいただけるだろうか。
使い方はごくシンプルで、そのマットを庭の、できるだけひらけた平らな場所に置くだけ。
そして、風の中、その上に座ってじっとマットが空に浮き上がるのを待つ。それが魔法の絨毯ごっこだ。
名誉のために言うが、私は当時、本気で翔べると思っていた。
木枯しに吹かれながら、1時間近く庭にマットを敷いて座り続ける孫を、祖父母は一体どう考えていたのか。
私も20歳の娘がいる親なので率直に言わせていただくと、馬鹿なことしてないで家の中に入れと、普通の大人なら言ってしまうだろうと思う。そして私が親なら、精神的に問題がないか病院に連れていくまでしていた可能性さえある。
こんなに理解不能なアホ遊びを、何も口出しせずに好きにやらせてくれていたのは、ものすごく寛大な教育方針だったのかもしれない。
そんな祖父母に育てられたから、私もここまで成長し、ある程度まともな大人になれたのだろう。なんとまぁありがたい話か。
この先、どこかの子供が想像もできないような馬鹿らしいことをしていても、私だけはその子の行動を受け入れてあげよう、そう思わせてくれる気付きだった。
とかなんとか良い話風に終わらせることで、私の蛮行が中和されることを祈る。
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