働く天使ママコミュニティ「iKizuku(イキヅク)」代表 星野さん藤川さんへのインタビュー【前編】
今回は、働く天使ママコミュニティ「iKizuku」を立ち上げた星野さん、藤川さんにお話をお伺いしました。
「iKizuku」は、働きながらペリネイタルロス(流産・死産・新生児死等)を経験した働く女性のピアサポートグループです。悩みや辛さを抱える経験者に向けて、さまざまな情報を発信しているコミュニティです。
この記事は、前編・後編に分けてお送りします。
前編ではお二人についてのお話や、コミュニティ立ち上げのきっかけについてお伺いします。
これまでの経緯
司会)それではさっそくお話をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
まずはお辛い内容もあるかと思うのですが、これまでの経緯をお伺いしたいと思います。
藤川さん)私は、34歳で女の子を妊娠しました。ですが、妊娠18週目に細菌感染が理由で死産となってしまいました。母体にも細菌が侵入してしまい、母体の危険と赤ちゃんも助からないとの医師の判断で人工死産でのお別れでした。
星野さん)私は、不妊治療を行う中で3回のペリネイタルロスを経験しました。特に3回目のペリネイタルロスでは、胎児に先天性の障害が見つかりお腹の中でしか生きられないことがわかり、妊娠15週目に人工死産を行いました。3回目の経験が一番辛かったです。
死産を経験した後の苦悩
司会)お辛い経験についてお話しいただき、ありがとうございます。ペリネイタルロスを経験した際に、感じたことなどがあれば教えて下さい。
星野さん)妊娠12週以降の流産・死産の場合、法律で8週間の産後休業の取得が義務付けられています。ただ、当時の私も上司も知らなかったため、当初は産後1ヶ月検診後に職場復帰を計画していました。
しかし、ネットで調べたところ、私の週数でも産後休業が取れるという記載を見つけました。上司に確認いただいた結果、産後休業の対象とわかり、結果、8週間の産後休業を取得して復帰しました。
司会)正期産での出産に関する情報は多いですが、死産に焦点を当てた情報は少ないですよね。
星野さん)会社のマニュアルにも死産に関する制度については、注意書き程度しか書かれていませんでした。私の場合は、産休をとらなければならないことが分かり取得できましたが、心身共に悲しみの中にいる中、自分に当てはまる制度を調べることに苦労したことを覚えています。
藤川さん)私も情報の少なさには不安を覚えました。死産後の心身の状態やそのケアの方法についての情報がなく、身体にどのような影響があるのか、すぐに妊娠しても問題はないのかが分からずとても不安でした。
出産した産科での産後検診はあくまで子宮内が綺麗か、出血がないかくらいの診察で、その後に相談できる場所を見つけられませんでした。
また、民間の産後ケアは無事に産まれた場合が前提で。勇気を出して産後整体にも行きましたが、死産だと伝えるのは辛かったです。
司会)情報の少なさや頼れる場所がないことは、メンタルにも悪影響を及ぼしますよね。
藤川さん)私は死産を経験したあとに、うつ病を発症してしまい、産休の8週間に加えて3ヶ月の休職をしました。死産後のメンタルケアを十分に行うことができなかったのが原因かと思います。
その後に現在3歳になる息子を妊娠しましたが、症状が悪化してしまい、精神科への入院も経験しました。産後もうつ状態が酷く、新生児の頃の育児は夫と義母にお願いしました。
星野さん)私も今振り返ると、8週間の産後休業で身体は回復しても、メンタルはまだまだ回復途上であったと感じます。職場復帰後は、これまで迷惑をかけた分、仕事を頑張らなければという思いがありました。
しかし、復帰から3ヶ月後の本来の出産予定日を迎えた日に、パソコンに向き合いながら「順調だったら今頃出産して我が子を抱いているはずだったのに、何故私は働いているのだろう・・・」と、これまで蓋をしていた悲しみが一気に押し寄せてきました。
大切な人やもの等を喪失した時に起こる心身の反応を「グリーフ(悲嘆)」といいます。故人との記念日や命日などに心が揺れることは記念日反応と言われ、グリーフの自然な反応なのですよね。
しかし、当時の私はグリーフの知識を持っていませんでしたので、自分の揺れ動く不安定な心に戸惑っていました。
コミュニティ立ち上げのきっかけ
司会)辛く悲しい流産・死産を経験された際に、どのような情報があったら助けになったでしょうか?
藤川さん)一般的な妊娠・出産に関する情報と同じように、ペリネイタルロスについても正しい情報を知りたかったですね。そして職場復帰に向けて必要なメンタルケアについての情報も欲しかったです。
星野さん)私の場合、ペリネイタルロスからの職場復帰後にに昇格面談があり、今後のキャリアについてすごく悩んでしまって。
SNS等では、ペリネイタルロス経験者のことを「天使ママ」と呼んで、「#天使ママ」のハッシュタグで繋がっています。「#天使ママ」で検索しても、経験直後の体験談は目にするものの、ペリネイタルロスを経験した働く女性のキャリアやライフプランについての情報は中々見つけられませんでした。
そこで自分で「#働く天使ママ」を作って投稿してみたところ、藤川さんが最初に使ってくださったんです。そこからコミュニケーションをとるようになり、「iKizuku」の活動に繋がりました。
司会)こうしてコミュニティが生まれ、お二人で活動していくことになったのですね。
働く天使ママを取り巻く課題
司会)働く天使ママを取り巻く課題はどのようなものがあるでしょうか?
星野さん)課題・問題はさまざまです。
まず、働く天使ママという存在が、社会的に認知されていないことが問題だと思います。流産や死産はタブー視されてきた為に、あまり表立っては語られないので、経験者本人も、職場や社会も、ペリネイタルロスの心身の影響や既存制度が知られていない状態です。
教育面での課題もあります。病院で実施される両親学級でも無事に生まれる前提での情報しか教えてもらえません。流産・死産が起きる割合や処置・症状などの正しい情報、使える休暇や制度に関しても情報を発信していく必要があると思います。
流産・死産後の社会復帰へのアプローチも重要だと思います。医療現場ではグリーフケアが受けられる場所も増えてきていますが、退院後は本人の自助努力に委ねられているのが現状です。出産年齢の20代、30代、40代は社会にも必要とされている世代であり、社会復帰は大きなテーマです。しかし、退院後からの職場・社会復帰、復帰後のケアについては個人の問題され、見落とされてきました。
星野さん)厚生労働省から自治体に対して流産・死産経験者への心理社会的配慮についての通達が出て、各自治体等で相談窓口を設けたり、ペリネイタルロスに関する相談窓口が掲載されたりと、少しずつ動きもあります。
ですが、まだまだ働く女性の現場である職場での認知は不足していると思います。個人の問題としてではなく「社会の課題」という形で、働く天使ママやパパへのサポート体制を整えていきたいと思っています。
司会)認知されていないこと、教育面での問題、情報不足などさまざまな課題があるのですね。
藤川さん)今、世の中ではダイバーシティ、多様性を大切にするという流れがあると思います。職場でのダイバーシティ、特に女性の活躍、ということでは、「子育てしながら仕事をする」という視点がメインで語られていますが、本来はそれだけではありません。
妊娠したら仕事を辞める人が多かった時代には流産や死産が目につかなかったのかも知れません。妊娠出産後も働き続ける人が増えている中、働きながらペリネイタルロスを経験する人も増えていくと思われます。
生理や不妊治療、更年期など女性が健康に働き続けるための支援の必要性が少しずつ注目されてるようになっていますが、ペリネイタルロスも抜けてはいけない視点です。
司会)流産や死産についての知識を深めることは企業の課題だと言えますね。
藤川さん)流産・死産を経験した方の6割に、不安症状やうつ状態が疑われるという調査もあります。メンタルに不調がある状態では、仕事のパフォーマンスにも影響してしまいます。
可哀想だから労りましょう、というような道徳的な問題ではなく、会社として社員の健康をサポートする、ひいては職場のパフォーマンスを維持することになる、という認識を持って欲しいです。
また本人から会社に、流産や死産のことをきちんと伝え、自分の心身の状態や、復帰する際にできることできないこと、配慮して欲しいことを説明することも大切だ、とも伝えていきたいです。経験者の情報リテラシーやコミュニケーション能力の向上についても、働きかけていきたいと考えています。
まとめ
今回は働く天使ママのお二人に、コミュニティ立ち上げのきっかけとなるお話をお伺いしました。
次回は、後編をお送りします。
後編では、お二人が立ち上げたコミュニティについて、活動内容を詳しく紹介いたします。