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なみだがあふれ出るとき

少し前になりますが、アンデルセンの創作童話『人魚姫』を読みなおす機会がありました。久々のことでした。
今回は、こんなくだりが、目に留まりました。

夜になってねえさんたちがうでを組み、海の上へあがっていくとき、すえの姫はぽつんと一人立ちつくし、ねえさんたちを見送るのでした。今にもなきそうでしたが、人魚はなみだをこぼせないので、よけいにつらい思いをすることになるのでした。

『アンデルセン童話集』訳・木村由利子

人魚は、なみだをこぼせないのですね。
では、いったい、わたし達人間は、どんな時になみだを流すのでしょう。
あらためて、そんなことを考えてしまいました。

なみだを流す時、なみだが流れだす時とは。。。


知らず知らずのうちに、
言葉にならない
哀しみや、さみしさ、つらさ、怒りが
心の中に積もっていって、
もうこれ以上
積みあげられなくなった時


そんな時、なみだが感情を追いこし、目からあふれ出て、ほほをつたわり落ちることがあります。言葉はみつからず、ほほを流れるあついなみだを感じるだけの瞬間です。



こんななみだは、言葉に代わって、わたしの中にあるもの全てを表してくれていると言ってよいのではないでしょうか。

そうして、なみだは、心に高く積みあがった感情を、静かにゆっくりと溶かしていってくれる。

泣き終わった時、からだには、ぼんやりとした気だるさがありながらも、心がすっきりと軽くなることもあります。



なみだをこぼせなくて、余計につらさがましてしまった人魚姫。
無理もないことかもしれません。



また、これとは違う色合いのなみだもあります。


深いよろこびを感じ、感動がからだの内からこみ上げてきて、言葉よりも先に、あふれ出すなみだ。

言葉より先にというより、自分の感情が、どんな言葉もにもならない瞬間かもしれません。

言葉が邪魔にさえなるときに、なみだだけは、わたしを代弁してくれる。
そんななみだです。



人魚姫が、泡となってとけて、空気のむすめたちのところへ行く途中で流したなみだは、この類のものではなかったでしょうか。

少しずつ、しんぼうづよく、あなたは自分を高め、空気のせいれいの世界に入れることになったのです。これからあなたは、自分のよい行いを重ね、
三百年のうちに、ふめつのたましいを手に入れることになるでしょう。

同書


人間のように不滅の魂をもたない人魚の寿命は、300年。
人間の王子を愛しながらも結ばれず、自らが死ぬことを選び、海の泡となった人魚姫。
でも、姫は、ここまできてやっと、心の底から求めた不滅の魂を手に入れる約束を得たのです。



その時です、

人魚姫はすきとおったうでを、こうごうしいお日さまにさしのべました。とたんに生まれてはじめてなみだがあふれだしました。

同書

生まれて初めてあふれでたなみだを、人魚姫は、どんなおもいで感じたのでしょうか。




この上なくやわらかで、あたたかななみだだったことでしょう。


Reiko




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