陽乃草子「ススキ/ジャノヒゲ」
ススキ
今日も今日とて放浪している最中に、ススキが目に留まった。
随分とススキが集まって群生している。全体の高さとしては2mをゆうに超えていただろうし、その範囲も直径1.5mほどまで及んでいたと思う。
ススキというものに、単体の一つの穂のイメージはあるものの、それらが植物として群生しているという認識をあまりしていなかった。
ふわふわとしたススキの穂が風に揺れるのを見て、どうしても手に取ってみたくなる。
と思えば、誰かわたしと同じことを考えている人が過去にいたらしい、手折られたススキの一穂が株の根本に打ち捨てられていた。
これは好都合だ、と拾い上げてみることにした。
穂
ススキの穂はふわふわとした種のようなものの集合体だ。撫でた感触はやはりふわふわとしている。良いものだ。
穂はわたしが揺らすままの方向に従う。これも面白い。わたしは春や夏に猫じゃらしを手に取ってみるのも好きなのだ。その面白さに似ている。時折ふわふわの種が穂から取れて地面に落ちていく。種のひとつひとつにはほぼ重さがないらしく、それが地面に落ちきるまでにはしばし時間がかかる。それを目で追いかけるだけに時間を使うのは些か贅沢な気もしたが、そういう時だってあっていいだろう。
案外硬さをもっている軸の部分を持って回転させてみれば、柔らかい毛を持った穂どうしが少し絡まる。回転し続けるススキの穂を眺めるのも、簡単には飽きないほど面白かった。道端でススキを見つけた際には、ぜひとも持って帰って回転させてみてはいかがだろうか。
ジャノヒゲ
ススキの近くの地面に群生している植物がある。丈夫な植物のためよく植え込みなどに使われる、「ジャノヒゲ」という草だ。蛇の髭、ということだろうか?わたしはこれまで「竜の髭」と呼んでいたが、なんだか同名の飴があった気がする。ただ、別名としてリュウノヒゲもきちんと存在しているようだ。園芸品種も豊富で、その品種として「玉竜」という名前もついているらしい。
竜の実
わたしがこの植物が好きな理由は、草の根元の方をかきわけると現れる、深い青色の実だ。冬頃に探すと見つかりやすい気がする。
これを手にいっぱい持って歩くのが、幼少期のわたしにとってはとても嬉しいことだった。その時から随分時間は経ってしまったが、今でも輝く群青の実を草の中から見つける感覚はたまらなく嬉しい。光の当たり加減によって、瑠璃の宝石のようにも見える。
味
今になって、幼少の頃のわたしは、どうしてこれを口に入れようとしなかったのだろうと不思議に思った。子供というものは、綺麗なものや物珍しいものは一度口に入れて叱られるのがセオリーなような気がしているが。
ただそこはわたしも大人になってしまったようで、一度危険性がないか調べてみた。毒性はないらしいが、特に食用ではないらしい。
では、食べても害はないということだ。
青色の実は軽く力を入れれば簡単に潰れる。輝かしい青色のかけらを手に取って、ほんの一部分口に含んでみた。
食用ではないのも頷ける。まず青臭さが鼻につく。しかし、その少しだけ奥に、ほんのりとした甘さが隠れていた。瑠璃色をした皮の舌触りも新鮮で硬くはないし、苦味もない。悪くない。
結論として、食べられないことはなかった。いつか本当に飢えたときには、ジャノヒゲの根元を掻き分けて竜の実で食いつなぐこととしよう。
今日も良い放浪をした。