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日本で開催された国際茅葺き会議に、各国から150人の茅葺き職人が参加

国際茅葺き協会が主催する国際茅葺き会議が、5月18日から22日の5日間にわたり、日本各地を舞台に開催されました。5月21日に行われた京都府南丹市美山町北集落を見学するツアーとワークショップ、そして「茅葺きオリンピック」に参加したので、その様子を紹介します。

国際茅葺き協会

国際茅葺き協会(ITS:International Thatchers Society)は、茅葺き建築に関する知識や情報を交換するための国際的なプラットフォームです。ITSにはイギリス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、南アフリカ、そして日本の7か国が加盟しています。今回はITSとして第6回の国際会議で、日本では初めての開催だそうです。会期の前半2日間は岐阜県の白川村でカンファレンスやフォーラムが開催され、実際に白川郷で合掌造りの屋根葺きも行なったそうです。後半の2日間は西日本に移動し、京都市清水寺の檜皮葺修理現場をはじめ、茅葺き建築や竹中大工工具館など、主に現地を見学するプログラムでした。僕が合流した20日午後には、参加者たちはすっかり打ち解けている様子でした。

京都府南丹市美山町の見学

美山町に着くと、まずは茅葺き屋根の消化剤について、能美防災株式会社によるデモンストレーションがありました。水に特定の無機物を混合してゲル化させることで付着性を高め、延焼防止や燃焼抑制の効果を期待するものです。まだ開発中ということでしたが、確かに効果が示されました。職人からは、単位面積に必要な量やコストについて具体的な質問が出ていました。まだ開発中ということでしたが、保護の選択肢が増えることは良いことだと思います。

昼食の後、職人の一行は、ガイドから美山町北集落の町並みや自然環境についての説明を受けながら歩きましたが、やはり興味は茅葺き建築に集中していました。なかでも職人が使う道具には興味津々で、日本の職人に用途を聞いたり、自分の使っている道具を写真で見せたり、中には「これはどこで購入できるのか」という質問も出ていました。

ワークショップ

ワークショップの現場は、北集落を上りつめた場所にありました。現場に着くと美山茅葺きの職人さんたち7人がすでに屋根葺きの作業をされていて、参加者が数人ずつそこに加わり、茅を葺いていきます。大げさな言い方をすると、国の重要伝統的建造物群保存地区の景観形成に、様々な国の職人たちが加わっているわけで、こんな茅葺き建築の「間口の広さ」が面白いな、と思いました。職人たちはここでも議論をしていて、特に道具のことや、角の葺き方が話題になっていたようです。

茅葺きオリンピック

予想外だったのが茅葺きオリンピックです。競技は2種目あって、茅束を投げて直径80cm程度の輪をくぐらせる投げ込みと、できるだけ遠くに飛ばす遠投です。いずれも各国3人が2回行い、くぐった数と飛ばした距離で競います。プログラム表を見た時には余興程度に思っていたのですが、職人たちは皆すごいヤル気です。聞けば、茅葺きの現場でも、地面から屋根の上に向けて茅束を投げ上げることもあるそうです。力を見せることはもちろんですが、アルコールも入り、国対抗というのが盛り上げさせるのでしょう。競技はとてもテンポ良く進んで行き、投げるたびに歓声が上がりました。日本人が投げる時には「Sake!Sake!Sake!」と謎の酒コールが上がっていました。

感じたこと

茅葺き職人同士が話しをする場に居合わせることができたのは、自分にとっては大きな経験でした。屋根の上で葺き方について確認し合う時は、短い時間の中で技術を知ろうとする真摯な姿勢が感じられました。茅葺きの屋根は30年もすれば葺き替えが必要になります。職人たちは、その「束の間」のために仕事をしているわけです。儚さを知りながら最高の力を注ぐ、という姿勢を傍らで見させてもらったことに、色々と考えさせられました。

何かを作るとき、僕らはつい「長く使えるもの」「普遍的なもの」をめざしてしまいがちですが、世の中の多くのものが永遠には存在しません。いつかは葺き替えをすると知りながら最適解を探して手を動かし続ける職人の姿は、米作りをする農家や、舞台演劇の役者にも通じるものがあるなぁ、と感じてしまいます。そして不思議なことに、普遍性を追い続ける研究者と、時限を意識しながら手を動かす職人は、違うのだけど同じ空気を感じたりもします。

僕が参加したのはほんの1日だけでしたが、1週間にわたって会議を成立させるには多くの苦労があったと思います。良い機会を作って下さった実行委員会のみなさまに感謝します。

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