6.支援とは私が変えることではなく、 相手が変わる土壌を作ること

  BCP。予め災害時の事業実施の優先順位をつけた計画。新型コロナの感染拡大が続く中、BCPに基づいた事業実施が求められ、通常の相談対応が後回しに。これまで受けていた相談も中断となった。そんな状況が続く中、来所、訪問、電話での話もできないことから、私のもとには沢山のメールが届く。

 シンジさん(仮名)は20代の男性。高校卒業後、就職や進学など、他の同級生が取るような行動が取れず、在家庭の生活を続けていた。家族は両親、祖父母、妹の5人。日中、両親は仕事、妹は学校、祖父母は畑に行き、家で一人、スマホをいじる生活をしていた。

 外に出ないといけない。他の人と同じように仕事をしないといけない。でも、周りの視線が気になる。自分は周りとは違う人間のような気がする。こんな人間に育てたのは家族が悪い。学校が悪い。社会が悪い。外に出ないといけない・・。堂々巡りの考えが浮かんでは消え、その状況が辛いことから、スマホから手を離せず、何をする訳でもないのに、電源を入れ、意味はないと分かっていながら、ネットニュースを眺めてしまう。ゲームをしても、面白くない。やっても続かない。時間が長く感じられ、自分が一人家庭から、社会から取り残されたように感じていた。

 そんな状況の中、家族からの連絡を受け、私が関わるようになった。彼に話を聞くと、上記の内容を繰り返す。何かを提案すると、それを否定する。やらないといけないのは分かる。でも、それをやろうと思っても身体は動かない。自分はおかしくなっている。おかしい原因は家族が、学校が・・。そんな話が続いていきました。

 私は相談の結果を求めない。大事なのは続けること。話が進まない。進まないのであればいつダメになってもおかしくない。でも、続けている。それが凄いことであることを繰り返し、彼に伝えた。

 そのような話を半年続けた時、彼から他の相談者の人はどんな感じなのか?と質問された。自分のことしか見ることができなかった本人が、他者に目を向けることができる。それはそれで素晴らしいこと。彼に他の相談者はこんなことを話すよと伝えていく。始めの頃は、自分との違いを話す。その人はそうかもしれないけど、自分は違う。その人達は恵まれている・・。自分がどれだけ大変なのかを認識する。そのために他者の話を必要とする。自分の殻に閉じているという点では状況は変わっていないのかもしれない。でも、それが回数を重ねていくと、自分にもそういうところがあると自分にひきつけて考えるようになる。

 他者との違いではなく、他者との共通点を見ようとする。違いを主張している間は社会と繋がることはできない。共通点を見るとは、社会性が出てきた表れなのかもしれない。そう私が思い始めた時、新型コロナの感染拡大が出て、相談は中断に。

 中断の時間が半年過ぎた時、彼からメールが届いた。「お話できませんか?」、彼に電話を入れると、以前と同じように「彼は動かないといけない。でも、動けない・・」などと話し続けた。変わっていない。そう思った。でも、一通り話し終えた後、彼はこう言った。「でも、前よりは良いんです。前よりは良くなっていると思います。」

 支援において、変えることが目指される。問題のある行動を問題のない行動に変える。それを支援者は支援と話す。でも、変える主体は支援者。支援者の力で相手の行動を変える。そんな考えになる。でも、私には人を変える力はない。でも、シンジさんは変わった。

支援とは、私(支援者と呼ばれる人)が変えることではなく、相手が変わる土壌を作ること。私はそう思う。

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